2018年 09月 23日
ワダツミ5 七つの珠 ウガヤフキアエズ
七つの珠 ウガヤフキアエズ
そろそろ夕闇が迫ってくる時間になった。
私たちは志登神社を出て二見ケ浦に向かった。
菊如と崋山は「何か」を受け取る所を探している。
「ここ!」
二見ケ浦の櫻井神社の大鳥居の所で菊如が言った。
ここは二見ケ浦でも西のはずれだった。
浜に出て右手を見るとカフェの明かりが遠くに見えている。快晴だったのに、いつのまにか雲が広がり、強烈な冷たい風が吹きつけていた。
「道がみえる」
と菊如が海を示す。
そして、菊如は海の向こうから「何か」を受け取った。
海風がひどかった。
写真を見ると、丸の中に風神がいるんじゃないかいな。
角をはやして、左に風袋もってない?
車に戻ると、二人は霊視を始めた。
「黒色の箱だね。中は何も見えん」
「枠は光っている」
「真珠?」
「卵?」
「ウミガメの卵?七つあるね」
そんな話を二人がしていた。
いったい何が何やら。訳が分からない私は記録係として記録をするだけだった。
その夜、崋山から連絡があった。二人はあれから玉手箱の中を精査したという。その概要を教えてくれた。
玉手箱の中には亀の卵を象徴する珠が七つ入っていた。それをどうしたら良いか、ワダツミの神が教えてくれたそうだ。
「海の向こう側から攻撃が近づいている。空からの攻撃は見せかけで、海から船で上がってくる。海の底から来る。深い結界を張らねばならない。
そのために、この七つの珠を七か所、海関係の神社に行って納めて来よ。代わりに宝具を貰い、某所に納めればよい」
という内容だった。豊玉姫の話と通じていた。
「海関係か豊玉姫関連の神社だけど、るなさん知ってる?」
「そうね。神功皇后の本にいくつか書いてる。天神の三越前で話した時の資料にも、いくつかリストを挙げてる」
たまたま、資料の残部を二人に渡していたので話は早かった。
そこでいいのかどうかは、現地に行ってみないと分からない。
はたして二人は行きつくだろうか。いくつか道が難しい。
こうして、私はいつのまにか「七つの珠」に関わり始めていた。
「ところで、ワダツミの神は男だった?女だった?」と聞くと、崋山はポセイドンに似ていると答えた。なるほど、男神だったか。
いったん電話を切ったが、しばらくして菊如から電話があった。
「ウガヤフキアエズが出て来たので、電話を通して話を聞いてほしいんだけど」
「え?私が質問するの?用は無いのに?」
こうして電話セッションが始まった。
ウガヤが懸かった崋山と私の一問一答だった。
ウガヤが語り始めた。
「私たちは迫害されて移動した。我が一族と共に総勢112人。6艘の船に乗って行った。
元の地は安曇の地だが、そこから船を出した。風に乗り西の方に回って着いたが、そこでは言葉が通じなかった。そこはウド。」
「鵜戸神宮?宇土半島?」
「日が落ちる地」
―それなら宇土半島だ。
「どうして追われたのですか」
「この海を血で汚す者たちが現れた。白い銅の槍を持って攻め入ってくる者たち。黒髪、黒ひげの一族。目は黒。金色のひも。われらの地一帯に攻め入って来た。
戦いは好きではない。我々は海と共に生きる」
「元の場所とはどこですか」
「生まれた所から動いていない。志賀島。フキアエズ朝があった」
「志登神社には王朝がありましたか」
「志登神社の所は浮島になっていた。あとは海だった。神々が集う地だった」
「二見ケ浦の海路が閉じたり開いたりするのは?」
「海の者が発着する。朝は逆風が吹く」
「一族は沢山いたのですか」
「我らの一族は海と陸にいた」
「安曇ですか」
「われらは安曇」
「あなたの目の色は」
「青い色。今で言うヨーロッパから船に乗って来た。我ら一族にはエラ呼吸の痕がある」
「ホモサピエンスではないのですか」
「人間と交わってできた。人間と海の者の間。豊玉姫と山幸彦が契を交わして新しい種族を創った」
「あなたの御子は神武天皇ですか」
「ちがう」
「あなたの父君の名は?」
「…」
「言いたくない?」
「わが父から迫害された。我は安曇の一族と思っておった。海の人間の間に生まれた特別な力を持った者。われらは西へ西へと逃げて行った」
「どこに着いたのですか」
「穴の空いた岩が見える。ウーロー。ウーロ」
「ウーロ、今の宇土半島ですか」
「6艘で出たが3艘が着いた。神武とは関係ない。ウォーガ。モガ」
「茂賀?熊本の?」
―茂賀なら安曇がいる!
「…。新しい地で何がしたいか、何ができるか分からない。」
「あなたの子息は?」
「いない」
神話とは全く違う系図のようだ。状況が良く分からなかった。
メモが途切れ途切れで心もとない。
ウガヤが言うには志賀島にフキアエズ朝があり、ずっとそこに住んでいた。
目は青色で、もともとヨーロッパから渡来したという。
人間と海の者との混血とも。
安曇だと言ったが、途中で安曇ではないことを知った、と告白した。
子供もいないなら、神話に出てくるウガヤフキアエズとは別人となる。
神話では玉依姫との間に神武天皇らが生まれている。
このウガヤの場合はフキアエズ朝に黒目、黒髪の一族が襲って来たので6艘で脱出したが、3艘しか宇土には着かなかったという。
現実世界で宇土半島に行ってみると、歴史資料館に甕棺があった。福岡では御馴染(おなじみ)の巨大な甕棺だが、驚いて尋ねると、甕棺は宇土が南限の地だという。
宇土地方は熊本平野から南下する時、必ず通らねばならない谷だったそうだ。
谷の両脇の丘には古墳群がある。古代には谷も海だったかもしれない。
ウガヤはこの付近に到着したのか。穴の空いた岩があったという。
さてその日、電話を終えて深夜に風呂に入っていると、外から大勢の男たちの歌声が聞こえてきた。呑んでいたとしても、深夜に大声で歌うなんて非常識だ。
いつまでも歌っているので、窓に耳を近づけて耳を澄ますと、全く静かだった。
???
ところが、風呂に浸かると歌声が聞こえる。
二度やってみたが同じだった。
気持を切り替えてメロディーを覚えることにした。
ソーソレ ソシシッ ソーソレ ソシシッ ♪
言葉は分からないが、アップテンポで、男たちが大勢で胸を張って自らを鼓舞するような歌だった。11月11日のことだった。
同じようなことが11月22日にも起こった。
今度は大正琴のような音色で、やはり大勢の人が鳴らすような楽曲だった。
8分の6拍子だった。シンコペーション。
ッシ ドッド―ッシ
こんな感じ。あとは複雑で覚えられなかった。備忘として記録しておこう。
2080923
異世界小説