2018年 09月 27日
ワダツミ9 御島神社 三つ目
御島神社 三つ目
志式神社を出ると、糸島に向かうために国道3号線に出た。
途中、福岡市東区香椎に近づいて歩道橋を見た時、私はふと、道に迷ったことを思い出した。
それはラジオ番組の収録の時のことだった。
御島(みしま)神社で収録したあと、ディレクターを神功皇后ゆかりの鎧坂(よろいざか)と兜塚(かぶとづか)に案内することになった。ところが、目印となる歩道橋を一つ間違えて、違うところに迷い込んだのだ。
それを思い出して、菊如に、
「私、ここで道に迷ったのよねえ。歩道橋を一つ間違えちゃって。ディレクタ―に鎧坂を案内しようとしてね」
そう言いながら、ふと、出発点の神社を思い出した。
「あれっ?その神社、綿津見の神が祀ってあるよ」
その神社というのが「御島神社」だ。
それは香椎潟の海中の岩礁の上に立っている。
鳥居と石祠だけの神社なので、多くの人は気づかない。しかし、神社の原風景だ。
昔は香椎宮に向かう船から手を合わせていったという。
菊如が「そんな形で思い出したというのが‘“当たり”ということよ」と言った。
「じゃあ、行ってみる?」
「行きましょ」
決断は早かった。次の信号は右折せねばならない信号だった。ギリギリ間に合った。
しかし、現地に着くと、さすがに二人ともこれが神社かと驚いたようすだった。
社殿はない。
それでも今日は岩礁がちょうど海上に頭を出しているので、グッドタイミングなのだ。
菊如は「どうかしらねえ」と言ったが、すぐに「あ、道が出来ている」と海上を指した。私にはそういうものは全く見えない。
「ほら、あれ。波が違うでしょ」
ああ、それなら良く見える。
現実に、海上に明らかに波形が違う円状のエリアがあった。写真でも白く写っている。
これがどんどん近づいて来た。
みるみる私たちが立っている橋の所までやってくる。
さすがに、これは尋常ではない。
人通りもあるので、菊如は小声で祝詞を上げると、やはり白皇に海上に珠を奉納させ、代わりの物を受け取るようにと言った。
白皇ももう慣れたようすだ。
何かを受け取りながら、「痛…。指が膠着する。ロックかかった。痛い」と手のひらを見せる。掌底部が赤くなっていた。固そうな、鉄のような何かを受け取ったらしい。
崋山によれば、これは金で出来た扇だという。要(かなめ)の所は丸い。複数枚の羽は中央から左右に、ガシャンと開くタイプだった。これは海底から波を起こすものだという。
どおりで。
白皇はガシャンと皮膚を挟んだようだ。
どれもこれも肉眼では見えないものだが、白い円状の波間が移動するという自然現象は現実にあった。こうして想定外の所でまた一つ役目を果たした。
さあ、これで糸島に行こう。
『神功皇后伝承を歩く』下巻67 御島(みしま)神社
20180927
異世界小説