2018年 10月 04日
ワダツミ16 和布刈神社 六つ目
和布刈神社
六つ目
七つの珠の奉納は封印されたワダツミの神の復活をさせ、
海の底から侵入する敵を防ぐためだという。
二つの珠の奉納先もあっさりと分かった。
また封印したのは物部のサワラビメのミコトだということも分かった。
正直、この手の話は余り乗りたくないのだが、行きがかりの縁とは不思議なもので、七か所、二人をきちんと案内したいという思いは強くあった。
私たちはあと二つの珠を奉納する日を早々に決めた。
四人の都合が合ったのはそれから十日後の3月24日だった。
私の担当の「繁栄の種」の奉納もこの日だ。
これには桜の咲く時という条件があった。
今年は桜の開花が例年よりかなり早い。
私たちの都合はこの日しかなかった。
桜が咲いていることを願うばかりだった。
和布刈(めかり)は午前中指定だ。
菊如に午前の仕事が入った。
そこで崋山と白皇と私の三人で和布刈神社に向かうことにした。
ここは神功皇后の本のために取材して以来だ。向こうの山は本州の山。
珠を奉納するなら、例の所に違いない。
そう、有名な和布刈神事(めかりしんじ)の時に海に入る所。
旧暦の元旦の夜中にワカメを刈る神事が毎年行われているが、それは安曇磯良が神功皇后に干珠満珠の秘法を授けたことが由来だという。
深夜、干潮になって松明(たいまつ)を灯(とも)しながら荒磯の岩場に白衣の神官たちが入っていく。
ワダツミの神の授けるものは海の中に入らねばもらえない。
神功皇后の時にそれを行ったのは妹の豊姫。
豊姫も巫女だった。
その場所は福岡市東区の志式神社の海だ。
海の中に入ること、それは禊(みそぎ)でもある。
安曇の者たちは海中に潜ってミソギをした証(あかし)として海藻を二つ採ってくる。
だから、海藻を奉納した神社が各地にある。
さて、この日、本殿で参拝を済ませると、二人を案内しながら、崋山のアンテナが感知するのを待った。
本殿が食い込む巨大な磐座(いわくら)。
本殿の右の磐座。
左手の稲荷社。
かつては神功皇后もここに立ち、
豊玉姫と山幸彦とウガヤフキアエズを祀ったのだ。
それは多分、あの志式神社で神と交わした約束だったのだろう。
皇后は最後に九州を発つ時、ここで干珠満珠を奉納したともいう。
波と渚。
海と陸が交わるところ。
こここそ豊玉姫とその家族を祀るにふさわしい所だった。
この日、関門海峡では旗を掲げたいくつもの漁船が操業していた。
やがて崋山は海に向かう鳥居を示した。
やはり、あの場所だった。
和布刈神事が行われる場所。
鳥居から石段を下ると波が寄せていた。
崋山はいきなり「あそこ」と海上を指す。
もうすでに波がそこだけ荒れていた。
祝詞を上げるうちにその荒れた波がこちらにどんどん近づく。
荒れ方が激しい。
最後は波が石段の上まで上がった。
崋山が珠を捧げると白皇の手に見えない杖が乗った。
それは巨大な棍棒(こんぼう)のようなもの。
鬼の持つ棍棒のように突起が沢山ついている。
しかも、持つ方は突起がある方だった。
「イタタ」
目には見えない棍棒だが、白皇の指が腫れた。
これはイザナギとイザナミが国土を作り固める時にコオロコオロと掻き回した杖だともいう。
それを縮めて収納すると、崋山が困った声で「龍神が来ちゃった。どうしよう」と案じている。
「後で話を聞きますから」と言って、白皇の左胸の上の方に預けた。
そうだね。
今は別件で動いているから、話は後だね。
後日談だが、この龍は杖を守っていた龍神だったそうだ。
『神功皇后伝承を歩く』下巻72志式神社
下巻100和布刈神社
20181004
異世界小説