2018年 10月 07日
ワダツミ19 綿積神社2 七つ目
綿積神社2
七つ目
早春の桜谷を後にして、船越の綿積神社に向かった。
前回、間違ってここに迷い込んだことも、今では意味があったのだと思える。
既に見慣れた景色。
ここにはアジャーシタという不思議な女性がサンゴに封印されていた。
海と陸をつなぐ門が開いた話。
玉依という七人の養育係。
そして、玉依たちが養育するのは豊玉姫。
そんな話をした後、亀が迎えに来たと言って去っていった。
アジャーシタは豊玉姫が裏山の方にいると教えてくれたが、その日はここではなく、志登神社で会えた。
そもそも、この物語の始まりは岡垣町の大国主神社で豊玉姫が崋山に懸かり、志賀島に帰りたいと言ったことからだ。
豊玉姫はその日のうちに、大島の厳島神社の近くの民家の掛軸に描かれた亀を通して志賀島に戻っていった。
これで一件落着かと思われるが、何故、豊玉姫が大国主神社にいたのかという疑問が菊如と崋山を突き動かしていた。
二人には解決せねばならぬ何かがあるのを感じたようだった。
さて、話を戻そう。
この神社で七つ目の珠を奉納して宝具を貰うとしたら、どこだろうか。
私は境内を見まわした。
すると、目は海の中にある小さな岩礁に釘づけになった。
あれこそふさわしい。
きっとあそこだろう。
何故か私は確信した。
しばらくすると、案の定、菊如がその岩礁を指差した。
そして白皇に受け取り方を説明した。
それから菊如が祝詞を上げて珠を献上すると、鍵が白皇の手に入った。
白皇は「胸が苦しい。バクバクする」と言った。
崋山は裏山から豊玉姫の分御魂(わけみたま)を貰って、白皇の胸に入れた。
二度目の分御魂だ。
白皇は落ち着いたようだった。
その瞬間だった。
有線放送が「夕焼け小焼け」を奏で始めた。
「5時ぴったり」
四人は大笑いした。
これもまた成し遂げたというサインだった。
それにしても、あの岩礁には前回は気づかなかった。
どうしてだろう。
そう思って前回の画像を確認すると、満ち潮のため、岩礁は波頭が見える程度だった。
この日、この時間でないと、あの岩礁は現れていなかったのだった。
その後、崋山は神殿前の石段を下りようとして、
「ここ!ワダツミの神の宮殿そっくり!」
と言い出した。
そう、この境内は参道を中心として左右対称の庭園風になり、海へと続いていた。
普通の境内だが、どこか西洋風の趣がある。
これとワダツミの神の宮殿が似ているというのだ。
それは志賀島の勝馬にあったことが後に分かって来た。
こうして3月の内に七つの珠の奉納をすべて終え、七つの宝具を手に入れた。
あとは、5月3日の大島の竜宮祭を待つのみとなった。
やわらかな桜の開花。
この年、恋い焦がれた花が目の前にあった。
20181007
異世界小説