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ひもろぎ逍遥

ワダツミ31 ナグム ワダツミの神の妻



 ワダツミ31  

ナグム ワダツミの神の妻

 
  
 
この日は私が初めから変だったという。
皆の視線が集中すると、右膝を立てて背中を壁に付けて座り直した。
余計なものが背中にくっついていた。
菊如は黙ってそれをさっさとはがした。

それから私の左胸からカケラを一つ抜き、崋山の額に入れた。

崋山に懸かった者は右手で何かを祓うような所作をゆっくりとした。
水の中で波を起こすような。
それを延々と最後までやっていた。


菊如が言った。
「初めまして」
「そなたたちは何が聞きたいのじゃ。何をそんなに調べている」

「あなた様は何という方ですか」
「わたくしの名前…。こちらの名前…。われの名はナグム」

「何処に住んでおられるのですか」
「われは海の底。四つ柱の宮殿はわれの為に建てられたもの」

「どういうお役目があったのでしょうか」
「われはワダツミの神の子を生むためにあの宮殿に住まわされた者でございます。
ワダツミの神が封印されたため、あの宮殿も時を同じくして海の底へ。
あの宮殿はワダツミの我ら一族の住む宮殿でございます。
第二、第三の豊玉を作るために。

我らは海を離れることは出来ません。
しかし、海の中と陸地、両方兼ね備えた子を生み育てようとしたのでございます。
海の中と陸地の両方に住める者を作るため。

ワダツミの怒りに触れ、渦が起こり、大地震、大津波が起こり、すべて海底に沈んでしまいました。

私は尋ねた。
「玉依とはどういう方ですか」
「ワダツミの一族とは違います。ワダツミに仕える一族でございます。
われらより人間に近いのですが、人間ではございません。
人間のように臭い匂いではない」

「干珠満珠とは何ですか」
「代々、豊玉を名乗る者が受け継ぐ珠でございます。
干珠満珠を持つのが豊玉姫です。
守る役目が豊玉姫でございます。
決して豊玉姫の為にあるのではなく、この世の為にあるのです。
珠の為の豊玉でございます」

「この世の為の働きとはどういうことですか」
「潮の満ち引きはすべての者の暦でございます。
人の生き死に、すべてを司る。
すべての物を生み出し、すべての物を引いていくのです」

「今は何処にあるのですか」
「一組は出雲の方に。
一組はワダツミの神が持っております。
必ず大切なものは一対になっております」

「出雲にある事情は?」
「菊如たちが集めて持って行ったではありませんか。
本物の一対。
一組は出雲の神より十種の神宝、これを捧げなければこの国の神は動けないのでございます。
十種の神宝が四方八方に散らばったのは人間の仕業。
人間によって一つに集められ、神に奉納し、それをもって八百万の神が働き出します。

そのために干珠満珠は海の者たちが力を貸す約束でございます。
今一度、一つになり、この国を建て直す時です。
そのためには神々が働きます。

干珠満珠は人間が持っても使えるものではありません。
ただ人間の仕業で四方八方に散らばったものは人間の力で神の元に返す、それが大事なのでございます。

そのお蔭でこの地にワダツミの神が戻ったではありませんか。

そこから新たな豊玉姫が生まれ、干珠満珠を手に取り、この干満の力により、太陽のオゾン層が元に戻ります。
氷が元に戻り、海の上昇も元に戻り、すべての環境が元に戻るのです」

「それは完結したのですか」
「それぞれの場で働くようになってきました。
今回、そなたたちがワダツミの神を復活させたではないか。
これでワダツミの神が復活し、新しい豊玉姫が生まれ、豊玉姫に干珠満珠が戻り、気候が元に戻ってきます」

菊如が尋ねた。
「四つの柱には螺旋がありますよね。それは動くのですか」
「そう。あのまま上に上がっていくのじゃ。何故そのように造られたのか。
海が嵐の時には海底に沈んでおかねば危ないじゃないか。そんな事、誰でもが分かっておる。

今、海底からの侵入者を防がねばならぬ。
海の底を通ってこの地にやって来る者たちがおる」

私が尋ねた。
「今でも四つの柱は機能しているのですか」
「ワダツミが復活しましたからね。
今まで影を落としていたワダツミの神社に明かりが灯り、それに呼応して豊玉の神社に明かりが戻り、神々の道しるべとなる明かりが戻って、事が進んでいくのです」

「海の侵入者は神に任せておけばいいのですか。これからが始まりなのですか」
「始まりです。本当にしたかったことは、すべての神たちが手を結び、すべての者たちが今一度、自分たちがしたことを振り返ること。
気づいている者がおるではないか。
段々と変わっていく。
任せていればよい」

「ナグムは私の何ですか」
「遠い昔。私はあなたの遠い昔」

「転生したのですか」
「遠い記憶、かすかな記憶、海の底で暮らしていた記憶。
きっと今でも目をつぶれば海の底にいる記憶が蘇ります。
静かな静かな海の底。
そしてワダツミの神の強さと大きさと激しさをそなたは知っているはず」

これは私のカケラの物語だという。



20181030




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by lunabura | 2018-10-30 20:44 | 「ワダツミ」 | Comments(0)

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