2018年 11月 14日
ワダツミ36 ヤキター村のマクロ―2
ヤキター村のマクロ―2
飯塚の王塚古墳が出来る前、金を掘っていたマクロ―の時代はどんな時代だったのだろうか。私は尋ねた。
「ヤキタ―村の人たちはずっと昔からいたんですか」
「我々が最初にあそこにいた。二本線のきらびやかな衣装のヤツラが後からやってきたのだ」
「戦ったのですか」
「戦うもなんも、戦う道具などは持たん」
「占領されたのですか」
「ああ」
「掘った金を狙われたのですか?」
「金どころではない。我らは戦う種族ではない」
「何と呼びました?相手のことを」
「…」
マクロ―は言葉に詰まった。
歴史上知られる種族、渡来人の名が出てくれば、ありがたいが、マクロ―にとっては「二本線のヤツラ」で済むのだろう。
私は話を切り替えて、マクロ―自身の種族について尋ねた。
「あなたの種族は何という方々でしたか?」
「…」
「何かシンボルマークを持っていましたか?」
「…」
「入れ墨は?二本線の者たちのように入れ墨を入れていましたか?」
「入れん。我らは入れ墨などは入れぬ」
「長(おさ)は?どなたですか?」
「我らの長は、ヌタと呼んでおった」
私たちは息を呑んだ。
まさか、探していたヌタの名前がここに出て来ようとは!
その間にマクローはシンボルマークを思い出していた。
我々は紙とペンを与えた。
すると、勾玉のような絵を描いた。しずくが勾玉のようにカーブを描いている。それを六個。中心から花びらが開いたような形に描いた。
「何と呼んでいたのですか?それを」
「我らのマーク。これは空に浮かぶ雲により、一つに集まる。
我らは占領され、腕に二本の線の焼き印を入れられた」
――なんと。二本線の種族に捕えられたヤキタ―村の者たちは同じ二本線の焼き印を入れられ、配下に組み込まれてしまったというのだ。
なんと無残な。
彼らは誰なのか、知る方法は無いか。
現代に通じるもの。
そうだ、神の名を尋ねてみたら分かるかもしれない。
そう思って、私は尋ねた。
「マクローさんの神は誰ですか?女神ですか?」
「ああ」
「何という女神ですか」
「我らの女神…、我らの女神…、…、我らの神事、我らの神、巫女の事か?」
マクローたちにとっては巫女が神だった。
祠にいる神ではなく、生きて自分たちの指針を与えてくれる巫女が神だった。
ここで、菊如が尋ねた。
「巫女の名前は何ですか」
「我らの巫女…、サワラベ…、サワラビメ」
マクローは再び絵を描き始めた。
それは蕨手紋に近かった。
地上から芽を吹き、茎が出て先の方でくるりと曲がる。
それを中央から6個描いた。
「水が草花を育て、伸びる」
――サワラビには命の芽吹きの意味があるようだ。その名を持つのが巫女か。
六つの雲が集まる。
六つのサワラビが伸びる。
マクローたちは、そういう自然の営みを尊んでいた。
マクローは語った。
「我らは表向きには戦いを好まぬ。農耕民族だ。しかし、金の採掘をしていると、オホヒメが『金、そのうち金を狙って来る』と言われ、我らは戦いの準備を始めた。
表は農耕、裏では戦いの準備…」
この時、突然、崋山に女人が懸かった。
「もう良い。もう良い」
たどたどしいマクローのようすを見かねて、別の存在が入れ替わった。
この日の夕方、撮った六ケ岳の上の雲。
雲が刻々と不思議な形を取っていたので、思わず撮った。
並んだ丸い雲。
これが六個丸く花が咲くように放射状に開いたのがマクローたちのシンボルだった。
20181114
異世界小説