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ひもろぎ逍遥

脇巫女Ⅱ 13 開けてはならぬ 


脇巫女Ⅱ


13 開けてはならぬ 



崋山の切られるような腹部の痛みは、神木が切られたことに関わっていた、と分かった時点で消えて行ったが、再び腹部に異変が生じた。初めはスイカの種のようなモノが生じ、次第に大きくなっていった。

それどころか、みるみると大きくなり、ツワリの苦しみが現れた。
妊娠して臨月に至るまでを二日間で体験させられているようだった。

このため、緊急の結願(けちがん)が行われた。
歴史的な審神者(さにわ)が必要だと言われ、私も参加することになった。

菊如は「六ケ岳、宗像、鞍手の物部について、述べたい者よ」と呼びかけた。
すると、崋山に何者かが懸かった。
四つん這いになって、前足で畳を削ってうなり、威嚇してきた。
「開けてはならぬ。そなたたちは何をしたいのだ。この箱を開けてはならぬ」

「箱とは、六ケ岳の箱のことですか」
「今更、何をする」

「その箱に何が入っているのですか。神社の下にある?」
「開けてはならぬ」
崋山に憑いた者は両手の指を丸め、動物のような姿になり、うなりつづけた。

菊如はその姿を見て
「山犬さまですか。犬神さまですか」と尋ねた。その者はそれには答えず、
「何人(なにびと)も関わることあたわず。何人からもこれを守る」
と目には見えぬ箱を守り続けた。

菊如は観た。
「六角形の箱ですね。どなたのお使いですか。邪心や欲で話していると思われますか。どなた様のお使いですか」と尋ねて、にっこりとした。

「わが目は欺かれぬ。何人(なにびと)たりとも、ここに入ることあたわず」
「六ケ岳、物部一族、この国のことで何が起きているのか知りたいだけです。誰より言われたのでもありません。
ただす所はただす。守るべきことは守る。守るためにはどうするか。分からないとできません。
人間がやることです。山を立て直すことも、開発を止めることも神様では出来ないことです。
私たちが完璧に出来るとは限りませんが、因果応報があるのは心得ています」

「そなたの心に偽りはないか」犬神は耳を傾けた。

「話があったから出て来られたんでしょう。用が無いなら、お引き取り願います」
きっぱりと言う菊如に、犬神は譲歩した。
「六ケ岳は大事なところ。面白半分に開けてみるべからず。心ある者でなければ見つけることはできぬ」

「それを欲してはおりませぬ」
「皆がこの箱を狙っておる。箱を使って、もめたのだ。しかしこの箱で修復できる。人間よ、六ケ岳に入る時は心してかかれ。犬神一族が見ておる。そなたが見つけたいものを教えよう」

「見つけたいものはありません」
「今はな」

「何があったのかを知りたいだけです」

いきなりの犬神の登場に、私は度肝を抜かれた。「箱がある」ということを私たちは知りもしない。しかし、犬神は威嚇することで、その存在を教えているではないか。黙っていれば、誰も知らないものを。いや、そうやって教えたかったのか。

その言葉から分かったのは、六嶽(むつがたけ)神社の地下に六角形の箱があり、犬神がそれを守っている、ということだった。

この時、他に、崋山に懸かろうとするものがいた。
犬神はすっと消えて行った。


これは、2016年2月24日、寒い夜の話だ。

<20191007>





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by lunabura | 2019-10-07 20:51 | 「脇巫女Ⅱ」 | Comments(0)

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