2020年 01月 03日
脇巫女Ⅱ43 第二ヤマトタケル2 セオリツは何処に隠した
43 第二ヤマトタケル2
セオリツは何処に隠した
私は尋ねた。
「セオリツは誰に預けたのですか」
「もう言っていい話か」
「ええ。神功皇后は話しました。あなたに預けたと」
それを聞いてタケルは納得して語った。
「私が連れて、一人で隠せる場所。私が独りで行ける場所といえば・・・
私が連れ去った、と神功皇后は話しているのだろうが、私は何処にも連れ去っておらぬ。
木月宮で過ごした」
――タケルはセオリツが元々預けられていた木月宮に戻したというのか!全く想定外だった。
「それを神功皇后は知っていましたか」
「いいや。一番近くに隠した。近くの場所に隠すのが一番。セオリツはそこで育った。神功皇后に言えば見に行く。」
――そうすると、セオリツは自分の出生の秘密を知らずに育ったのだろうか。まさか、そういうことはあるまい。タケルが長生きしたら、伝えたはずだ。
「あなたは永く生きていましたか」
「その地を離れた。長く人といると情が移る。それを避けねばならなかった」
――答えがそれた。この話はそらせられない。私は食い下がった。
「セオリツは父も母も知らずに育ったのですか」
「木月の婆さんが知っていた」
「サガミですか」
「婆さんだ。あの婆さんだけには正直に話した。この子は大事な子。名を伏せて育ててくれ。我々とは連絡は取らずに、と。有り難いことに女の子だったので、戦いに出ることもなく育っただろう」
「セオリツが成人するのを見ましたか。どうなったか知りませんか」
「それどころではない。西の方に行き、意気揚々と戦うも、運が尽きる時が来た。
第三代ヤマトタケルが準備されていた。
熊本の地で背中を斬られ、三日間苦しんだ。いろんなことを思い出した。
スクネと楽しく戦っていたこと。
自分が本格的にヤマトタケルとして出たこと。
その位置にいると、見えないことも見えるようになる。私にとって、人は駒だった。
この戦に勝ち、ここを平定させたら、その先は考えておらぬ。次の地に行くだけ。
戦いのあとの土地は死体だらけだった。血の流れた土地がもとの草木に戻るには何十年もかかる。
そのことを一つも考えていなかった。
倒れて草原に倒れた自分・・・雲が見えて、小さな雑草が目に入った。
こうやって土に還るのかと思った。息を引き取る三日間考えた。
自分についてきた者はどうなったであろう。
自分に子供を預けた神功皇后の思いは。
共に戦った自分に殺されたスクネの思い。
私は何のために生きて来たのだろうか。
村を治めたのではなく、武力で収めただけ。
それが何に繋がるのだろう。
私は他に生き方があったのか。
その三日間、私は考えた。
ただ、しなければならないこと、やることに必死で、いろいろな人の思いに、私は考えたり耳を傾けることもなく、心を寄せなかった。あの頃の私には情は邪魔であった。
そしてふと気づいた。
私も単なる駒に過ぎなかったと。
――第二ヤマトタケルもあれから間もなく亡くなっていた。
「ヤマトタケルの前のあなたの名前は?」
「幼少の名か。タケルの前の名。クサカベユウシン。草加部友信だ」
「生まれは何処ですか」
「奈良だ。そこから木月へ連れて行かれた」
「それでは神功皇后は途中で亡くなったのですか?亡くなったあと、メイを下したのはどなたですか」
「仲哀天皇の弟だ。少しの間だがな。
ただもう、大きな神功皇后を失くすということは、ある意味崩壊を意味した。バラバラになっていった。
兵も昔の勢いなはなく、様々な戦いに勝ち続けて身に付けた自信でもって、自分が正しいと主張を始めた。
今までの戦略や剣に優れていると思わせることで、有利な立場に立とうとした。あの者たちが歯向かえば、私は一たまりも無いであろう。
殺したスクネも次の世代に変えられた。私は一人息絶えたとしても、戦うのは次が動き出す。何の変わりもなく。
「スクネを殺した後、第二スクネが誕生したのですか」
「第二代スクネは準備されていたが、気が合わなかった。自然と一代目と比べてしまう。私がとらわれていただけなのだが。
その時に誓った。もう二度と友を裏切らぬと。裏切られるくらいなら自分の命を絶つ。そう決めた」
「あなたの転生者に伝えたい事はありますか」
「私が言えることは何もない。言えるとしたら、自由に自分の思い通りに戦うことだ。戦法は頭の中にきちんと入っておる。先程言ったように、そなたが先陣を切っていけば、周りの者は後ろにいることを決め込む。
そなたは後ろにてそれぞれの分野に精通した者を使い、にこやかに象徴として居ればよい。戦いとはそうやってやっていくものだ」
その転生者自身がタケルに向かって尋ねた。
「スクネはどんな私情を挟んだんですか」
「神功皇后と関係を持った。表は仲哀天皇だが、あれはスクネの子だ。それを私にだけは秘密を話した。そして我が子を手元におきたいと。それは許されぬ。
あくまで天皇皇后二人の子。スクネはそれがたまらなかった。
私情を挟んではならぬ立場となり、このことを公にすると、すべてのものがひっくり返る」
「熊本で誰に殺されたのですか。次のタケルですか」
「我を殺した…者は…三代タケルの側近。駒に過ぎぬ。
そなたたちは我を英雄とのたまうが、英雄などいない。そう。世の中も英雄を創りたかった。
親元から離され、心動かぬよう、人に接近せず、分かり合わず。任務の為、役割のために生きた。
英雄などおらん。
そなたは英雄になるな。自由に生きろ。
それに賛同する者が集まる。英雄は目指すものではなく、死したのち、周りの者が決めること。ただ、そなたも人タラシ。そこを上手く使っていけばよい。戦いはそれを好む者に任せよ。よいか」
過去生の魂が、現代に転生した自分に語るひと時だった。
<20200103>
パラレルワールド 異世界小説
「脇巫女」はコチラ
「脇巫女Ⅱ」を始めから読む⇒コチラ