2020年 01月 23日
ウーナⅡ10 ガジュは辿り着かなかった
さて、この日居合わせた琴音が12人の一人かどうか、確認することになった。
出て来た男はひどく咳き込み、あきらかに病気で死にかかっていた。
菊如が尋ねた。
「船に乗って来た人?」
「ああー。ワシは舟に乗って病にかかった。咳や熱がひどい。ワシは呼吸が苦しくなり、身体が動かなくなり、役目を果たせなくなった」
菊如が神水で癒すとようやく話が出来るようになり、語り出した。
「我が名はガジュ。本土に着く手前、あと少しの所で病に倒れた」
菊如は「その病、身体から出す」と言って原因となるものを抜き取った。
ガジュはさらに元気になって話した。
「我が身体に蛾が住み着いた。それから呼吸が出来ない。本土に着き、目の前であの地に着けず」
ガジュの身体に入った蛾は頭の無い蛾で、人の口や鼻から入り、胸を侵していくものだった。
「あなたはどんな役目を持っていたのですか」
「風を読む者の話を聞き、ガードゥとは別の船を取り仕切り、船の進行、水取り、食料の調達、といろいろやった。時には皆を船から降ろさねばならなかった。
使命を果たせぬまま、ワシの御霊は皆と共にシナイ山の麓にある。また、あの時果たせなかった使命と共に」
「皆とまだ旅をしたい?今からでも遅くないですよ」
「あの頃の私は腕力も力もあった。私はガードゥを守るために、またガードゥから守られていた。
ただガードゥは皆に多くは話さなかった。私はガードゥの話を聞き、皆に分かるように話した。
使命は厳しく、それを聞いて泣きじゃくる人の話も聞いた。皆、不安や怖さがあった。このゴールは何処なのか、果たして行けるのか、皆、不安があった。
ガードゥのように見えたり聞こえたりはせぬ。ただしなければならない事が何となく分かった。私は信じることしかできない。ただこの病で思いを遂げることができなかった。それが無念」
菊如はガジュの思いについて語った。
「私たちの言葉では無念は「念が無い」と書くんです。無念から思いが離れて念が無いのが、これからのためだね。無念をはずすのが今世の目的だね。こうやって集まって来ているんだから」
と諭した。
ガジュは答えた。
「自分の心が、あの頃のように自分の心が躍るような人と出会い、また話がしたい。今は時間に流されるような生き方をした。それが出来るだろうか」
「できますよ」
「みんなとやり遂げたい。みんなと一緒にいたい。一緒に行きたい。あの地に残されるのは…いやだ」
ガジュの魂は六ケ岳の麓に残ったままだった。
「六ケ岳の下、今は川原となっている所だね。あそこに居たら駄目なの。待ってくれたのかな。本来の自分に戻ろう。病気になってプラス思考になれないでいる。
ガジュは気力が萎えて病んでいったね。どんなに苦しいことがあったとしても、言葉は偉大なり。言葉を先行させる。神に届いて必要なものを届けてくれる。
もう一人ではない。みんな周りにいる。殻を閉じていたから伝わらなかった」
「置いて行かんでくれ。私も行きたい」
「沢山生まれ変わりをしてきたよ。心が優しく、悩み苦しみ、本当は弱いのにそれを人に見せなかった。それをクリアしていこうと今世は女性に生まれ変わってきている。誰かを守る。今世で愛することを知って、寄りかかる事を知って、素晴しい女性になっている。
今、無念、念を晴らす、ことによって無念になる。破壊と修正。
今の琴音は素敵だよ。一生付き合いたいと思う。ここでどう変わるかだ。
念彼観音力、自分を信じる力が付く。これから必要。
封印された現琴音を再生していく。すなわちあなた自身になる」
「私は途中であきらめた。みなに迷惑になるからあきらめた」
「閉じ込めただけでは駄目。すべてを見通す、360度見通す目。聞き分ける耳。
再生して封印を解いて、本来の琴音の力を出して。神は全方向からあなたをサポートします。仲間がいる」
ここで私にバトンタッチした。
「ギムロはどうしましたか」
「上陸してウーナと共にその時が来るまで村に住んだ。その土地の男の格好をして隠れていた。その村で、その時まで、皆、散り散りバラバラに隠れて住んだ。
ガードゥは身体が大きく顔も違ったので隠しようがなかった。金銀を狙い、さまざまの地から人々が来ていたが、ガードゥはシナイ山の麓に陣を造り、一人でいた。他はそれぞれの村に暮らした。時を待たねばならなかった。
ガードゥが上陸した時、一人の現地の巫女と会わねばならぬと話していた。道案内をする巫女が一人。シャーマン」
この日、もう一人、来ていた。菊如はこの人についても確認した。
「ガードゥについていった人はこの人ですか。名前は何というのですか」
「エルマだ。ガードゥの側近だ。ガードゥの息子」
「伝令をしていたのですか」
「ああ。ガードゥは厳しいから、理解できる者をそばに置かねばならなかった」
「で、エルマが付いてきたのですね」
「本当の息子かどうか分からん。が、六ケ岳に辿り着いている。17~8歳の時だ」
次に私がガジュに尋ねた。
「亡くなる時、世話してくれた人はいましたか」
「私は皆にここに置いていけと言った。でも置いていけないという。パテオと言う女が世話をしてくれた」
菊如が言った。
「霊力がすごい。治癒能力が。エジプトの人」
「知らない」
ガジュは一人で逝ったのだろうか。私は尋ねた。
「パテオが看取ってくれたのですか」
「ああ。私が覚えているのはそこまでだ」
菊如が「月の関係?」と聞くと、ガジュは「うん」と答えた。
「パテオは舟の中で何をする人ですか」
「パテオは治癒能力があった。傷を負うと治してくれた。ただ私の体はもう駄目だった。今世のパテオは今、心が病んでおる。心で何かが目覚めようとしている。闇の中をさまよっている。今度は私が彼女を助ける番だ」
「やろう。覚醒して本来の力を出して」と菊如は励まし、魂を元に戻した。
12人のうち、ギムロ、ガジュ、エルマ、パテオが分かった。
<20200123>
「ウーナⅡ」を始めから読む
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