人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

ひもろぎ逍遥

脇巫女Ⅱ53 初代ヤマトタケル5 ミヤズヒメ 




タケルは私を見つめて言った。

「そなたに話がある」
「え?私に?」
私は思わず背筋を伸ばした。

「そなたは最初、こんな青い目をした者へ嫁ぐのは嫌だと言って、あばれまわって拒否したと誰かから聞いた」
――ああ、ミヤズヒメの事だ。私の過去生のミヤズヒメにタケルは話をしているんだ。

「一度そなたと会った。そなたは、船旅はどうだ、港はどうだと、話を聞きたがった。
世界中の話を聞きたがる女人はおらん。航路はどうだ、港の人はどんなだと、一晩中話を聞きたがった」
「あはっ。今の私と同じですね」

――そうだったのか。中東から日本まで、古代の人はどうやって来たのか、私は同じ話を昔も今も聞こうとしていたんだ。

「ああ。神功皇后に興味を持った。会わせろと言った。
毎晩キラキラとした目で、私から世界中のことを聞きたがった。
私とそなたの事はサンジカネモチが取り持った。そこを不思議に思った。
カネモチはあの宮に付いて来た。

私はこの地に留まることはできない。
カネモチは物部との和解の案として妻に、と言ったが、そういうことにはならなかった。そなたは話を聞くために会いたいと言った。
この地を離れると、お互いに辛い。
カネモチは私を良く思っていなかった。

そなたは女の身で学んだことを話していた。水がなくなったらどうした、大雨が降ればどうしたと。
この地に水の湧く壺がある話もした。
そなたは言った。ここを出たい、共に旅をしたいと。
戦に姫を連れて行くことはできん。そういう話をした。

私はヤマトタケルとして、戦をするために作られた人間だ。
心に少しでも淡いものがあるのは、タケルとしては不出来であった。
その頃、病を患った。咳が止まらず、呼吸が出来なくなった。次が準備されているのも分かっていた。
ならば、人として最後に生きることもよかろうかと思った。

カネモチの弟が会いたいと言って来た。私は会うことにした。
そしてまた面白いことに、その者も旅の話を聞きたがった。
その時は敵対関係はなく、人として話をした。
この国の状況、世界の情勢など。
この者も学びたいんだなと思った。

私のしてきたことは何だろうと思った。
今のように嬉しそうに私の話を聞いてくれるのを見ると…。

最後の出陣の日、姫が私をいたく気に入ったと、カネモチが言って来た。
この地に留まっても良いかな、と一瞬思ったが、葛藤があった。
すると、反旗を翻してカネモチが襲ってきた。
私は思いもよらなかった。
裏切られたことに気づいたが、この地では死ぬわけには行かなかった。

私は身を隠す必要があった。
付きの者五人と山の奥へと入っていった。
力が尽きてしまい、鎧を取れ、と言った。
危険だと言われたが、もうよい、私の力が尽きる、これまでだ、と言った。
ここでタケルの命が尽きたと分かれば計画が崩れる。鎧を隠せと命じた。

喉が渇いた。
小川が見えた。そこで血に濡れた手を洗い、水を含んだ。
鉛か鉄のような味がしたが血の味だろうと思った。

付きの者たちと奥へと姿を隠すために入っていった。私が死ねば、この者たちも死ぬ。
私が一日でも長く生きれば、と必死になって杉林の中に辿り着いた。
そこで、
もう良い。お前たちは逃げろ。私がタケルとは誰も知らん。好きに生きろ。そなたたちは逃げろ。亡骸はこの地に埋めろ、
と言った。

小川の水を飲んだからとなっているが、生命は尽きていた。

見晴らしの良い、風の通る竹林に、私は付きの者と眠る。
何の後悔もない。
役目だった。
そして、それがこの地に来た理由だ」

タケルは私に、ミヤズヒメを妻としなかった事情を話してくれた。

「私はいつも立って待ってました」
「ああ、そなたはいかにも、身振り手振りの忙しいおなごだと思った。
人という感情が戻った時間だった。
ヤマトタケルにならなければ他の生き方もあっただろう。
私に従い、敬い、付いてきた者が、私が嘆けば浮かばれぬ。
私はメイを全うした
何も後悔していない」

タケルはそう語ると去っていった。

遠い異国から父に連れられて日本に来て、タケルは戦う人間として育てられた。
その志も半ば、病に侵され始めたが、思いもよらず、生命を落とすことになった。

サンジカネモチは、タケル襲撃の直前に、ミヤズヒメをフルべ物部に預けた。
タケルを殺してクラ―ジュの物部の結束をアピールするつもりだった。
しかし、第二タケルが翌日には発動した。
サンジカネモチの計画は崩れ、フルべ物部たちはタケル側についた。
それに気づかなかったカネモチはフルべ物部の所に行って、襲撃された。
預けたミヤズヒメを連れて逃げようとしたが、タケルの死を知らない姫は、タケルを待つと言って拒否した。
それを聞いたカネモチは感情を押さえられずに姫を斬った。
そして、フルべ物部と戦い、そこで生命を落とした。

こうして、私の夢に馬上の武人として現れたサンジカネモチは死んだ。
さらに夢に出て来た青い目のタケルも死んだ。
そして、ミヤズヒメもこの日、死んだ。

私が見た複数の夢は、魂の仲間たちがここ、鞍手を舞台に生きたことを伝えたかったのだろう。
そして、さらに古い時代に、船に乗ってやって来て、成し遂げられなかった目的があったことを知る事になった。それがウーナの時代だった。

グループソウルは二度、三度と集まって、成し遂げなかった夢を果たそうとしているのだろうか。
まだまだ、この異世界の旅は終わらなさそうだ。

ところで、タケルの話の中に「水の湧く壺」の話が出て来た。
タケルの父が渡来した目的がこの壺を探すことだった。
そして、ミヤズヒメがその壺の事を知っていた。
タケルにその話をしたが、タケルは父に伝えただろうか。

<20200329>






パラレルワールド 異世界小説

「脇巫女」はコチラ  
「脇巫女Ⅱ」を始めから読む⇒コチラ


脇巫女Ⅱ53 初代ヤマトタケル5 ミヤズヒメ _c0222861_18414040.jpg

by lunabura | 2020-03-29 19:51 | 「脇巫女Ⅱ」 | Comments(0)

綾杉るなのブログ 神社伝承を求めてぶらぶら歩き 『神功皇后伝承を歩く』『ガイアの森』   Since2009.10.25

by luna