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ひもろぎ逍遥

脇巫女Ⅱ60 香月実篤6  民の暮らしを良くするために





琴音が香月実篤に尋ねた。
「香月の祖と言われてる方っていうのは、貴方の事ですか?」
「香月の祖?」

「ええ。香月姓の祖です」
「それは、私にはわからん」

「お父さんのお名前はどなたですか?」
「私の父か。私の父は香月秀達(しゅうたつ)」

「香月の一族の方たちは連綿として香月にいらっしゃったという事ですよね」
「ただ、あの頃の時代には様々な、香月の苗字じゃない者もまだ出てきている。名前を変え、香月に変えた。だから、名前ではそうとは限らん」


菊如が尋ねた。
「鉄工集団の一部を連れて行ってたんですか?畑(はた)のダムの上の方に。
きつねが言ってたんですよ。赤いきつねが。私がダムの近くで休憩していたら、私の様子を見に来たんです」

「我々が民に教えられる事は、この土地の物を活かすことだ。この土地でしか出来ない物。あの頃は鉄しかなかった。それなら、鉄を操れる者を連れていかねば。私達が行っても何の役にも立たん」

「そうですね。出来る事をね。能力のある者を連れて行って仕事をするという事ですよね」

「そして、元の者が、またその土地その土地で鉄を製鉄出来る者を育成していく。そして各地に拡げていく。そうしなければ配慮は無い。命が尽きたらそこで終わるではないか。次世代に繋げていかねば。あの土地の者を使わねば」

「なるほどですね」



再び琴音が尋ねた。
「香月篤盛っていう方ご存知ですか? 知らないですか?もしかして武内宿禰の別名、香月あつもりを」
「スクネの育った土地は我々とは違う。あれは禁断の地と言われるもの。我々は入られぬ土地で、選ばれし達者が育成されていた土地がある。私たちは近寄れない」

「分りました。あなたは斬られる前に鞍手が嫌になり出て行った事ってありますか?」
「いやいや、争いごとは絶えず有った。もちろん、色々な者が入ってくるんで争いごとはある」

「自分は侍と思ってたなら、前に立って戦いたかったっていう気持ちは有った?」

「もちろん、それは有った。ただ、あのヤマトタケルをみれば、私の思う侍魂など砕けとった。
戦い方が今までの戦い方とは違う。戦法も違う。まるで、聞いた事も見た事もない。侍としては疑問は残るが。

私は、それまでは侍のトップが先陣に立ち、行くのが戦いと思っていた。そうであろう。そこのトップが先陣をきって戦わねば。
後ろに引いてどうする。ただ、タケルや宿禰の話を聞けば違った。私はなるほどと思った。

それで、あの二人に張り合おうと思うか?私は度肝を抜かれた。あぁー、自分の侍という気持ちを勝たせるのではなく、この戦いに勝つという事に意義があるという思いだ。我々、個人一人ひとりがどうのこうのではないのだ。どういう戦いであれ、収めれば良いのだ」

香月実篤はサンジカネモチから教わった製鉄技術を北九州市八幡西区のダム周辺の民に伝えたという。今、その麓に「香月」(かつき)という地名が残っている。

実際、ヤマトタケルが香月氏の案内でそこから山越えをして金剛タケルの集落を視察した話が伝わっている地域だ。


実はこの日、香月実篤は冒頭でサンジカネモチらについて語っていた。

「何故一つに囲まれた、一つに束ねていた者達、こんなに散り散りバラバラに。
遠い昔を振り返ればここは我々の土地。そこから中国の者達がやって来ている。そう、我々はこの土地で農耕しかしておらず、そんなこんな山々に鉱物があるとは知らず。そこにある者達がやってきた。

そう、言葉も違って、我々よりはるかに体が大きい者達。その者達は、見掛けによらず我々に友好だった。そして、我々が鍬を持って一生懸命に田を耕している時に、その者たちはその鍬を取り上げた。そして、言葉は通じなかったが、我々と共に田を耕してくれた」

中国から来た者達というのが、サンジカネモチの一族だ。
父に連れられてクラ―ジュに来たサンジカネモチ三兄弟は熱田に入り、民に鉄を教え、共に農耕をした。

そこにヤマトタケルたちがやって来た。
その名目は「一つにまとまる」いうものだが、裏にはオサダ・ヒコ・ミツヨシがクラ―ジュの物部達を分裂させたいという目的があった。

これに対抗したサンジカネモチはクラ―ジュを守るために一計を案じた。
それは敵を欺くために熱田物部と新北物部の分裂を偽装するという作戦だった。

この見せかけの分裂を真に受けたのが香月実篤ということのようだ。
分裂に嫌気がさしてクラ―ジュを去った。
また、サンジカネモチが初代ヤマトタケルを殺したのも知っていた。

香月実篤は朝廷側に属し、その力量から最初の交渉と、後始末を任された。

その仕事の一つがアルゴラ派遣だ。
この香月実篤という人物の存在によって、アルゴラの王妃の時代と「脇巫女」が同じ時代だと判明した。


不思議なことに、香月実篤は「脇巫女」の当初から登場している。

「脇巫女Ⅱ12 香月物部サネアツサブロウタ」では、自ら登場して当時の様子を語った。
また、「脇巫女Ⅱ 19独白」では、クラ―ジュを離れた事情が語られている。
加えて、アルゴラに登場した様子は「脇巫女Ⅱ36ドゥック2 アルゴラの王妃」に出てくる。

今、その過去生を持つ人が現れて、その過去を語ったのがこの6話シリーズとなる。


<20200922>






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by lunabura | 2020-09-22 14:43 | 「脇巫女Ⅱ」 | Comments(0)

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