2021年 09月 26日
脇巫女Ⅱ66 香月智経4 祈るだけでは世の中は変わらない
「その後、ウーサに移ったんですね」
「ワシが思うたのはの。不思議な力のある子を見て来た。しかし、神託が降りたら、腹いっぱいになるのか。小便もせねばの。
神託が降りようが、祈るだけでは世の中は変わらん。
祈ることが出来て、世の遊びができて人間だ。私は二つしようと思うた。
祈るだけで、目の前に倒れている子を救えるか。
神仏は二割、あとは生きている人間の行動ではないか」
香月智経は現代に通用する考えの持ち主だった。
牢に入れられたのは、生まれた時代が早かったのか。しかし、あの時代にこそ、このような人物がいたことは救いだった事だろう。
智経の系図を見つけてあげたい。
「お父さんの名前は何ですか」
「香月三郎時継」
残念ながら初めて聞く名前だった。
「お母さんの名前は」
「タエ」
この人も初めてだ。住んでいた所から辿るか。
「住んでいたのは遠賀川の右岸ですか」
「ああ」
「畑ダムの所ですか」
「ああ、そうだ。きれいな水が湧いた」
智経の眼差しは遠い所を見ていた。
そこには香月の地名が今も残っている。おそらく、そこから出て鞍手のフルべの支配層にいたのだろう。鞍手の中でも最大勢力だった。
ここで菊如が尋ねた。
「ホウリ家とは」
「ワシとは違う。あっちは山の方。修験とか。考え方が違う。自分を鍛えて神の力を貰う」
もう一つ、ウーサの女神、イチキシマ姫が誰だったのか、確認しておかねばならない。
姫巫女のイチキシマヒメか、通訳のイキツシマ姫か、あるいは三女神のイチキシマヒメか。私は尋ねた。
「イチキシマ姫とは死んだ人ですか。それとも三女神の一人ですか」
「イキツシマ姫(壱岐対馬媛)が人間で、鉄に詳しい。熱田宮にいた。
イチキシマ姫が女神。天から来た姫。祀られているのはイチキシマヒメ」
ウーサのイチキシマ姫とは三女神の一柱のことだった。
そう、「脇巫女」が始まった時に出て来た名だ。
もう一点。仲哀天皇や神功皇后が何処から鞍手に来たのか、聞いておきたい。
「朝廷は何処から来ましたか」
「出雲から船に乗って来た。あやつらの頭の中はワシ等とは違う。
戦略の中に『人の心を動かす』というのがある。
我らの戦とは、強い、弱いで戦うが、あやつらの場合はその前から始まる。戦いの三か月、半年前から始まっている。その頃から、人の心を、あやつらは読んでいた。
『知恵を持っている』ということだ。それを受け入れる、否で大差が付く」
智経も朝廷は出雲にあったという。他の証言と同じだった。
サンジカネモチがミヤズ姫をフルべに預けた時は、フルべは旧勢力と同盟していたが、途中から朝廷側に変わった。
それは智経のように大勢(たいせい)を読むものがいたからだったようだ。
私達は香月智経にお礼を言って戻ってもらった。
過去生を知る事は過去生からの思考癖を知り、それが現世にどのように影響しているかを知ることになる。
それによって、改善する所が分かるようになる。
さらに、多くの人と関わって生きてきたことを知ると、人を許し、自分を許すことが出来るようになる。
そして、「現世で成し遂げたい魂の願い」を知る事になる。
それが、選択した行動に勇気を与えてくれる。
<20210926>