2026年 04月 14日
酒を褒むる歌 大伴旅人
万葉集には大伴旅人の「酒を讃むる歌十三首」が連番で載っています。その内の二首を紹介しましょう。
七 賢こぶるより酒さ
酒びたりの男に理屈でやめさせようとする友人がいました。
大伴旅人 三四一番
賢しみと 言ふよりは 酒飲みて 酔ひ泣きするし まさりたるらし
(さかしみと ものいうよりは さけのみて よいなきするし まさりたるらし)
賢そうに物を言うより 酒を飲んで酔い泣きするほうが良いってさ
〔賢ぶるヤツより 酔っ払って泣く方が人間らしいじゃないか〕
✿「賢しみと」とは「自分のことを賢いと思って」という意味です。誰かが大伴旅人を心配して飲酒を忠告しているようですが、旅人はその理屈が気に入りません。酔っぱらっては泣いています。心の痛みは理屈では解消できないのです。
九 お前こそ猿だ
大伴旅人の酔っぱらった姿を見て、「醜いからやめろ」と止める人がいました。 大伴旅人 三四四番
あな醜 賢しらをすと 酒飲まぬ 人をよく見ば 猿にかも似む
(あなみにく さかしらおすと さけのまぬ ひとをよくみば さるにかもにむ)
「ああ、醜い」と小賢しく言って 酒を飲まぬやつを良く見ると 猿そっくりだ
〔醜い酔っ払いの俺が 説教垂れるお前の顔を見ると そっちこそ 猿そっくりじゃないか〕
✿「あな」は強調することばで、「賢しらをす」とは「利口ぶって」という意味です。酒を飲んで赤い顔をしている大伴旅人のそばで注意してくれる人がいますが、遠慮がないようです。しかし旅人にとってはうるさいばかりで、「お前こそ猿そっくりだ」と反発しています。長官に対してここまで遠慮なく言える立場の人とは誰でしょうか。
『癒しの万葉集』-人生の四季を歌うー より
大伴旅人は太宰帥(だざいのそち)に着任して半年も経たない内に夫人を亡くしました。六十四歳で都から遠くに赴任して、一人になった日々。酒を飲んでばかりいる旅人ですが、二人の友人がずっとたすけてくれました。










