2019年 11月 07日
脇巫女Ⅱ 26 ジンヨウとパオタン 沖ノ島
脇巫女Ⅱ
26 ジンヨウとパオタン 沖ノ島
2016年12月5日。
スクネが初めて出てきておのれの最期を語った日、話が一段落すると、話題は沖ノ島に移った。
菊如はスクネに当時の沖ノ島について尋ねた。話に出て来る場所は昨日挙げた皐月宮の周辺だ。宗像大社のそばに釣川(つりかわ)が流れ、対岸に皐月宮、鎮国寺がある。
「沖ノ島は本来どんな島なのですかね。宝物がいっぱい出るんです」
「海から入ったり出たりする関所だ。金の無い者はすべてを置いて行かせた。入れるか入れぬかはそこで決める。外からの金銀財宝が眠っている」
「神の島と言われているんですが」
「近寄らせぬためじゃ。3、5の1。湊から入って来た。石があり、小高い山がある。そこから下に降りていく道がある。あの大社はそれらを隠すためのもの。島には神などおらぬわ」
「誰が島に最初に入ったんですかね。中国から三隻の船が入ってくるのが見えるんですが。水軍の長はスサというのではないですか」
この時、新たな男が来ていたらしく、菊如はスクネをはずしてその男を呼んだ。
「どけどけい」
男が割り込んできた。右手には武器を持って威嚇していた。菊如は悠然として尋ねた。
「お名前は?」
「ジンヨウ。あの地、我の地。入るでない」
「中国から来たんですか?中国から三隻の水軍で来ましたね」
「関所を通してほしくば、置いて行け」
片手を出して金を催促するジンヨウの言葉に応じて菊如はまるで船乗りのように演じはじめた。
「他のクニの船はどんなものを置いていってますか。我らも置いて行きますよ。ちょっと聞いたんですけど、あなたに任せた人を知ってるんです。ムカカタにいる人から任されたんでしょ。その人の名を出せば何もいらん。通行できると聞いてますよ。」
「パオタンか。パオタンがわれにこの地を守れと言った」
「どこからやって来たんですか」
「パオタンはわれと同じだ」
私が横から尋ねた。
「パオタンはどういう地域に住んでいるのですか」
「川だ」
「釣川ですね」
「関所で取ったものを箱に入れて腕に抱えて持って行って、赤橋の所で待ち合わせをした」
菊如はそれが何処か分かったらしい。
「鎮国寺の橋の所ですね。今は宗像大社になっている。何があったのですか。三人の姫様がおられることになっていますが」
「神様は海に住むわけがない。海に住む神といえば大亀か龍神かだ。ワニ族とか。
いいか。
われの時代は島ばかりだ。陸などない。海を船で行き来する。領土、線引きなどないね。
今の宗像大社の所も海だ」
菊如はさらに突っ込んで行った。
「パオタンって誰?」
「われらの船は陸に停泊なぞしない。海に留まって小さな舟で陸にあがるのだ」
ジンヨウは質問には答えなかった。が、菊如はさらに尋ねた。
「三女神の話があるけど」
「われらの時にはいなかった。月巫女は見たことがある。金と銀の扇を持って舞う。
突起した岬の上で巫女が踊っていた。われは神など見たことは無い。海の安全保障などできないぞ。で?」
ジンヨウは再び片手を出して金を催促した。
菊如はしらばっくれた。
「何もない。その人が名前を言えば通れると言ったんで。パオタン。どんな漢字なの」
「みな地域の名前を付ける。泡丹と書く。うちにもヒメがいるぞ」
――ジンヨウは沖ノ島の関守のようだ。中国から渡来し、パオタンの元で働く男だ。
これはまだ三女神の信仰が生まれる前の話だ。だからジンヨウは三女神の話を知らなかった。
これを聞いて思った。
日本海を航海するとき、沖ノ島は水の補給地として重要ではなかったか。水の補給地は陸の方は年毛宮(としもぐう)だった。
安曇族も宗像族もここで水を汲みだして海に向かったという。
沖ノ島は現在、水は少ししか出ないようだが、腐らないという貴重なものだ。
そうすると、航海中に水を分けてくれる関守がいたとしたら、宝物を置いていくことは大いにあるだろう。実務的だ。水の話は出なかったが。
<20191107>
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