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ひもろぎ逍遥

カテゴリ:「ワダツミ」( 36 )

ワダツミ36 ヤキター村のマクロ―2



 ワダツミ36  

ヤキター村のマクロ―2


 
  
 
飯塚の王塚古墳が出来る前、金を掘っていたマクロ―の時代はどんな時代だったのだろうか。私は尋ねた。

「ヤキタ―村の人たちはずっと昔からいたんですか」
「我々が最初にあそこにいた。二本線のきらびやかな衣装のヤツラが後からやってきたのだ」

「戦ったのですか」
「戦うもなんも、戦う道具などは持たん」

「占領されたのですか」
「ああ」

「掘った金を狙われたのですか?」
「金どころではない。我らは戦う種族ではない」

「何と呼びました?相手のことを」
「…」
マクロ―は言葉に詰まった。

歴史上知られる種族、渡来人の名が出てくれば、ありがたいが、マクロ―にとっては「二本線のヤツラ」で済むのだろう。

私は話を切り替えて、マクロ―自身の種族について尋ねた。

「あなたの種族は何という方々でしたか?」
「…」

「何かシンボルマークを持っていましたか?」
「…」

「入れ墨は?二本線の者たちのように入れ墨を入れていましたか?」
「入れん。我らは入れ墨などは入れぬ」

「長(おさ)は?どなたですか?」
「我らの長は、ヌタと呼んでおった」

私たちは息を呑んだ。
まさか、探していたヌタの名前がここに出て来ようとは!

その間にマクローはシンボルマークを思い出していた。

我々は紙とペンを与えた。

すると、勾玉のような絵を描いた。しずくが勾玉のようにカーブを描いている。それを六個。中心から花びらが開いたような形に描いた。

「何と呼んでいたのですか?それを」
「我らのマーク。これは空に浮かぶ雲により、一つに集まる。
我らは占領され、腕に二本の線の焼き印を入れられた」

――なんと。二本線の種族に捕えられたヤキタ―村の者たちは同じ二本線の焼き印を入れられ、配下に組み込まれてしまったというのだ。
なんと無残な。

彼らは誰なのか、知る方法は無いか。
現代に通じるもの。
そうだ、神の名を尋ねてみたら分かるかもしれない。
そう思って、私は尋ねた。

「マクローさんの神は誰ですか?女神ですか?」
「ああ」

「何という女神ですか」
「我らの女神…、我らの女神…、…、我らの神事、我らの神、巫女の事か?」

マクローたちにとっては巫女が神だった。
祠にいる神ではなく、生きて自分たちの指針を与えてくれる巫女が神だった。

ここで、菊如が尋ねた。
「巫女の名前は何ですか」
「我らの巫女…、サワラベ…、サワラビメ」

マクローは再び絵を描き始めた。
それは蕨手紋に近かった。
地上から芽を吹き、茎が出て先の方でくるりと曲がる。
それを中央から6個描いた。
「水が草花を育て、伸びる」

――サワラビには命の芽吹きの意味があるようだ。その名を持つのが巫女か。

六つの雲が集まる。
六つのサワラビが伸びる。

マクローたちは、そういう自然の営みを尊んでいた。

マクローは語った。
「我らは表向きには戦いを好まぬ。農耕民族だ。しかし、金の採掘をしていると、オホヒメが『金、そのうち金を狙って来る』と言われ、我らは戦いの準備を始めた。
表は農耕、裏では戦いの準備…」


この時、突然、崋山に女人が懸かった。
「もう良い。もう良い」
たどたどしいマクローのようすを見かねて、別の存在が入れ替わった。








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この日の夕方、撮った六ケ岳の上の雲。
雲が刻々と不思議な形を取っていたので、思わず撮った。

並んだ丸い雲。
これが六個丸く花が咲くように放射状に開いたのがマクローたちのシンボルだった。



20181114





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by lunabura | 2018-11-14 21:55 | 「ワダツミ」 | Comments(0)

ワダツミ35 ヤキター村のマクロ―1



 ワダツミ35  

ヤキター村のマクロ―1

 
  
 

この物語の始まりが2017年10月10日だった。
それから一年経って、2018年10月10日に、菊如と崋山は再び気になる所を回る事にした。

菊如は、大国主が動き始めている、という。
そして、「朝倉の大己貴神社はどうかしら」と私に尋ねた。

私は、
「大国主なら、飯塚に「出雲」があって、最近の統廃合で地名が失われたけど、信号機にかろうじて名前が残っているから、そこはどう?」
と言った。続けて、
「その南の土師(はじ)には老松神社があって、そこに大国主と少彦名がやって来たという、大変珍しい縁起があるの。
大国主の足跡を伝える神社はめったにないのよ。

そこから山越えしたら朝倉の大己貴神社にも行ける。
出雲に行ったなら、一度は王塚古墳を見たらいいよ」

そんな話をした。

菊如は「大国主神社にもう一度行こうかな」と言った。
「それはいいね!」
そうだ、再びそこから始めて思いつくまま南下すればよい。
二人は導かれるまま必要な所に行くだろう。


そして、二日後、10月12日に私たちは結願のために再び集まった。

そして、一人の男が崋山に懸かった。
その男は両手首が縛られているようにみえた。
そして、しきりに自分の左肩を示す。
菊如は尋ねた。
「どうされました?手が結ばれているんですね。」
男は言葉は返さず、右手でやはり左の肩、正確には上腕を掴んでみせた。

「そこ、どうされたんですか。どういう意味ですか。お話しください。肩をどうされたのですか」
「肩に二本の線があるやつらが攻め入って来た」

「どこに?10日に行った川ですか、遺跡ですか」
「遺跡」
それは王塚古墳を指していた。

「集団で来たのですか」
「色は浅黒かった」

「私は菊如と申します。あなたさまのお名前は?」
「私の名前か…、私の名前…は、マクロ―。肩に二本の線が…。
あの辺りには我らの村があった」

「何という村ですか」
「我らの村はヤキタ―」

「あの一帯に集落があったのですね。今は王塚古墳となっている所ですか」
「我らの村はあの反対側の山の麓だ。もともと鉱山があった。様々な集落が集まって奥深く金を掘っていた所だ」

「(王塚古墳は)立派な方のお墓だったみたいですよ」
「私は誰が入っているか知らん。私の時代は金を深く掘っているしかない」

「あなたがいた頃からあったのですか」
「あの場所は我らが掘っていた場所。深く掘っていた場所。山ではなかった」

どうやら王塚古墳が出来る前の話だ。この古墳には石炭の層があり、それを掘ろうとして見つかった古墳だ。危うく壊される所を、一人の男が命を張って守った。

この石炭層のさらに下に金鉱脈があったのだろうか。あるいはピンポイントではなく、その付近一帯の話なのだろう。

マクロ―は山側の方に住んで、金を掘っていたという。そのヤキター村に、ある日浅黒い顔の集団が襲って来て、マクロ―は捕えられたようだ。その集団は左肩に二本の線を彫っていた。入れ墨だろうか。



                        (つづく)






(この記事、2012年10月10日にUPしてた(*_*)








ヤキタ―の村は左手の山の麓かな?






(今の考えとは少々違っていますねえ。想像の部分は思考の過程と思って読んでください)




下の「ワダツミ」をクリックすると過去記事が出てきます。


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by lunabura | 2018-11-13 20:09 | 「ワダツミ」 | Comments(0)

ワダツミ34 ワダツミの神3 ハヤアキツ姫



 ワダツミ34  

ワダツミの神3

ハヤアキツ姫

 
  
 


新しい状況になったが、元の問題に戻らねばならない。
ワダツミの神が封印された事情を明らかにしたかった。

サワラビメのミコトは「ウガヤを殺したためにワダツミの神の怒りに遭って全滅した。そのためにワダツミの神を封印した」と言っていたが、実際どうなのか尋ねることにした。

「サワラビメのミコトはあなたによって船が沈められたと言っていましたが」

これを聞くと、ワダツミの神は急に強い口調になった。
「たまたま嵐が来たのだ。我の力ではない。勝手に我の力のせいにしているのだ。この地は島国。嵐もくれば大雨も降る。それを全部我のせいにしているのだ」
と言った。

「あなたを封印したのは誰ですか」と尋ねると
「サワラビメの一族だ。巫女がいる。七人の巫女と祝(はふり)だ。
そのうち3人は男、4人は女だった。

白い装束を着て、我らの竜宮、すなわち志賀島の入り口に立ち、我の力を封じるため、すべての門を閉じ、我を海底から引きずり出し、あの大島の祠に封印した。その7人の封印を使う者、大島におる。今でも」
と答えた。


「その7人は封印が解けたのは知っているのですか」
「あの封印が解かれるのを快よく思わぬ者もいるし、知らない者も多い。ただ、封印を掛けた者の子孫は今もなおあの地で生きている。

竜宮の入り口は沢山ある。海から入って来られぬというだけだ。
我が復活したからといって全て盤石とは言えぬ。
天の神、地の神、海の神が揃い、力を合わせなければならない。
それほど日本が危険だということだ」

私は話を原点に戻した。
「赤坂で死んだのは誰ですか」
「我ら一族は地に上がる必要があった」
とワダツミの神はまた、はぐらかした。

「西に行った人はどうなったのですか?」
「うまく安曇と合流し、生き長らえた」

「子供はいたのですか?」
「玉依との子を望んだが、安定の時代ではなかった。自分が生きるのに精一杯だった。戦う力を持たぬ安曇。しかし我の血筋が一人は確実に要る」

― 赤坂のウガヤも宇土に逃げたウガヤも子がいない。するとワダツミの直系は絶えたことになるではないか。謎がどうしても解けない。

この時、菊如が、
「あなたの手元の子の名は、本当にセオリツですか?」
と尋ねた。これに対してワダツミの神は答えなかった。菊如は
「本当の名はハヤアキツ姫ですね」
と言うと、ワダツミの神は「そこまで観えるか」と驚いた。

「男として育てられたのですね。ハヤアキツ姫は」と菊如が言うと、
「ああ。海を守る姫だ。今、我はハヤアキツ姫と共に竜宮におる。そなたは姫が観えておったか」と観念した。

「セオリツ姫とは?」と菊如が尋ねると、
「セオリツ姫とは固有名詞ではない。人の名前でもない。物の名前でもない。現象の名のことだ」

私は尋ねた。
「何の現象ですか」
「入ってはならぬ島に船が入ろうとして沈没したり嵐が来たりすると、それをセオリツ姫が守ったと人々は言った。
セオリツ姫はこの大海原すべてだ。
大海原すべてがセオリツ姫だ。

水平線がうすいピンクに染まる時がある。あれがセオリツ姫だと人々は言う。
ピンクに染まると嵐が来る。空もピンクに染まると雨が降る。あれをセオリツ姫の衣と言っている」

「ハヤアキツ姫とは?」
「隠す必要があった。我の命も狙われている。豊玉姫と我の命を狙うやつがいる。この子は守らねばならない」

「狙う者とは誰ですか」
「目の黒い者とこの地の者。我がいなくなれば思い通りに魚が採れると思う者。
巫女の言うことを信じた。戦うことを好きな者は自分たちで考えることも忘れ、うわべでは神の声を聴くと言って、占いをさせて踊らされ、戦いを仕掛けてくる」

「それは物部ですか」
「ああ、すべて戦いで片付ける。どうして我らが安全に生きて行けようか」


こうしてワダツミの神がハヤアキツ姫を隠していたことが出て来た。そのために幾重にも嘘を語り、辻褄が合わなくなっていたのだった。

話を聞いていると、段々逸れて行ってしまう。

想像を絶する興味深い話ではあるが、謎の原点に常に立ち戻らねば膨大な異世界の情報の海に漂う事になる。

問題は何か。
それはこの物語の始まりである大国主神社の豊玉姫だ。
何故、そこにいたのか。
何故、崋山に懸かり大島経由で帰っていったのか。
その辺りに絞られよう。

豊玉姫は干珠満珠を守るため、代々生まれているという。
そうすると、大国主神社にいた豊玉姫が何代目なのか、明らかにせねば状況が分からないことになる。

また、突然出て来たクグマは「豊玉姫らしき女人がヌタと共に来た」と言ったが、それが豊玉姫だったのかどうかは確定していない。勘違いの可能性もある。

面白いが、踏み込むことに躊躇する世界でもあった。



(つづく)


20181112

下の「ワダツミ」をクリックすると過去記事が出てきます。



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by lunabura | 2018-11-12 21:01 | 「ワダツミ」 | Comments(0)

ワダツミ33 大国主神社



 ワダツミ33  

大国主神社

 
  
 

 

さあ、大国主神社に行ってみよう。
記憶だけでは心もとない。









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目指す方向を雲が指し示している。


と、思ってナビを入れようとすると出てこない。
取りあえず行ってみよう。
何とかなるだろう。

ところが、鳥居らしきものが見つからない。
あきらめて帰る前にちょうど公民館があったので、人に尋ねると、地図を書いてくれた。
あと少しの所だった。

教えられたように行き止まりに出ると右の方に鳥居が見えた。







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それにしても、何と心地よい参道だ。

一気にイヤシロ地だ。
太陽の方向に歩いていった。
この参道は横参道になる。










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祭神はまだ分からないが、大国主命は祀られているのだろう。
裏手には天満神社があって道真公がまつられていた。
鍛冶の痕跡がある。

ここは遠賀郡岡垣町手野だが、「手野」の語源に「天野からの変化」説があった。
雨乞山に祈る所だという。





c0222861_1615489.jpg

正面参道の向こうにまっすぐ神奈備山が見えた。
これが雨乞山なのだろうか。

神はいつもこの山に向かっている。

そして、神功皇后はここに鎧の小手を捧げたという。

そう、私の本でも百五十か所は書いたと思われる神功皇后の足跡がここにもあった。
まだまだ書ききれないほどの足跡があるのだ。
座学では何も分からない世界がある。

チェリーが
「ウーナのお話は島々を巡るお話のようにも思えますねぇ…」
とコメントに書いてくれたが、そうなのだろう。

神功皇后は私の知らない福岡の美しい里山や海辺に私を連れて行ってくれた。

そして、ウーナの物語はさらに私の知らない福岡を教えてくれている。

海面がもっと高くて、人々が船で行き交った時代。
地形を見ると、ここも昔は入り江があったようだ。
津波が来れば潮が高く昇って来ただろう。
歩いてみると、クグマ族の話が妙にリアルに感じられる。










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境内にハートの手水鉢があった。
「インスタ映えするって、こんなのかな」
カメラを向けると、夫が「光が写るよ」という。

(何か徴(しるし)を下さい)

と思いながらアングルを取っていると、水面が細かく揺れ出した。
「え?風も無いのに」
とあたりを見回す。









c0222861_16164435.jpg

そして、カメラを覗くと、虹が現れた。












c0222861_16165969.jpg

空を見ると彩雲だ。

何と嬉しいことだろう。
あとでタイムを見ると、11月11日、午後1時ちょうどのことだった。












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帰りながら振り返ると、太陽が正面にあった。




さあ、再びワダツミの物語に戻ろう。



20181111



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by lunabura | 2018-11-11 16:19 | 「ワダツミ」 | Comments(0)

ワダツミ32 ワダツミの神2 セオリツ




 ワダツミ32 
 
ワダツミの神2 セオリツ
 
  
 
複数のウガヤと二人の玉依、庸(よう)と和葉(わよう)。

志登神社では豊玉姫は双子を生んだと言ったが、
庸の証言では豊玉姫は子供を生めなかったという。

豊玉姫の言葉は嘘だったのか。

神話で豊玉姫の子と言われたウガヤフキアエズは庸の子。

建前を語る女神と隠された真実。
幾重にも謎が残る。

それを見極めるのが審神者(さにわ)なのか。

「誰が一番知っている?」
「ワダツミの神やろ」

二人は早くから水の気配を感じていた。
すでに部屋は海の底と重なり合っていたのだ。

「海の中に話に来いやろ」
と崋山は決心して、海の底の宮殿に入って行った。
「海の底の宮殿にワダツミの神が帰って来ている。奥にいる」


崋山にワダツミの神が懸かった。
アグラをかき、右手のこぶしで膝を叩いて上機嫌だ。

「おお、よう来た。よう来た。そして我に何をお尋ねか」

身を乗り出して話を聞こうとした。
既に私たちの話を聞いていたのだろう。

ワダツミの神は語り出した。
「一人は我が手元においた。我の力を受け継ぐもの。
この竜宮と共に我が命を狙う者、現れり。

その時、我は豊玉姫を陸に上げ、我が孫をこの竜宮と共に海に隠し、我はこの海を守らんとした。
この海を汚す者、我が物とする者と戦い、時は流れ、人間の力で封印されし」


「ウガヤフキアエズのもう一人はどうなったのですか」
「豊玉姫が二人、子を生んだ。
その二人の内、一人が我が手元にあることを恐れ、二人を西と東に分け、まるで人々に追われるように見せかけて逃がした。それもすべて我が手元にいる子を守るため。わが血を絶やさぬため」

ワダツミの神はいまだに豊玉姫が双子を生んだと言っていた。
玉依が生んだ子なら、ワダツミの神の血統ではなくなる。

話が良く理解できなかった。
とりあえず西と東について聞いた。

「西と東とは九州内のことですか」
「ああ。わが地は、この場所は変わらぬ。この竜宮の地は変わらぬ。
入り口は様々あるが」

「竜宮の地は志賀島の元宮ですか」
「ああ。我が封印されし時、陸上にも宮殿があったが、人との戦いを決めた時、つぶしてしまった。海底の分しか残っておらぬ」

ここで菊如が見えていたビジョンについて尋ねた。
ビジョンとは元宮の浜に白い衣を来た人が打ち上げられている姿だった。
ウガヤフキアエズではないかと噂していたのだ。

「打ち上げられた白い衣の人はウガヤフキアエズですか」
「あの場所ではウガヤは死んではおらぬ。あの遺体は男か?」

「女?」はっとして言った。「庸の?」
「白い着物。覆いかぶさるようになった死体。ウガヤはあの地では死んではおらぬ」

しかし、庸は辛子色の衣だった。
すると、庸は姉にウガヤを渡したが、その場で二人諸共に殺されたのかもしれない。

庸は砂浜に埋められたと言ったが、人間を埋めるには道具がいるし、時間が掛かる。

嬰児を置いて逃げるような状況でそのような時間は無いだろうと思っていたが、二人とも死んだというのが案外真実に近いのかもしれない。


「赤坂で死んだのは?誰ですか?」
「赤坂で死んだのはウガヤフキアエズ。我が孫は三人」

―え?話が違う。さっき二人と言った!

菊如は言った。
「女の子が一人」
「三人とも男である」

「一人は男の子として育てた」
「おお、それを表に出すか」

ワダツミの神は隠していた。大事なものを。子供は三人でそのうち一人は女子。

「どういう意味ですか」
「我の血に豊玉姫。我らの種族を増やす方法の違いは、我らは今のそなたらと違う。
我らは卵、そう、鮭という魚と同じように卵を産む。女が卵を産む。

我がその卵に我の力を降り注がせる。すると卵がかえる。
ただし玉依はその機能が退化しておる。人間の子のように。

豊玉姫は人間の女性のように形は出来たが、中身までは出来なかった。
それでも子を生むことを望んだ。

この海と地をどうしても結ばねばならなかった。
我らの時代は子を成すことが唯一の力を結ぶ方法だった。
愛だの恋だの、この時代にはない」

ワダツミの一族は卵生だったという。いったいどれだけの進化の時を要するか。
これはなかなか受け入れ難かった。

しかし、それよりも、今日のテーマは複数のウガヤのことだった。
話がそれないように、スルーした。

「豊玉姫は子供を生まなかったのですよね」
「庸の子は三人だ。そのうちの一人をもちろんウガヤフキアエズとして育てた。
庸の子は我の血筋。直接我の血ではないにしろ、ワダツミの血。
豊玉姫のように純血とはいかぬまでも。
本当のウガヤフキアエズは、我の手元に戻って来た」

―三人?話が分からない。私は念を押した。

「豊玉姫と山幸彦の子ではないんですよね。では、ウガヤの本当の父と母は誰ですか」
「豊玉姫は子は生んではおらぬ。

三人のウガヤはワシの子。母はそなたではない。
豊玉姫と三人のウガヤフキアエズ」

ついに隠していた事が出て来た。
「そなた」とは私、すなわち「ナグム」
三人はワダツミの子なのだ。それなら直系となる。

すると、ウガヤの名が付く者が何人も、何世代もいたのだろう。
一人だと思っていた私がこだわり過ぎでいたのだ。


菊如が
「『セオリツ』が聞こえるのですが」
と言った。それを聞いてワダツミの神が答えた。
「我が隠した子、そなたセオリツ、とよく分かったな」

「そういうことですか」
「原始セオリツ」

「その子をセオリツと言うのですか」
「そうだ。海を守る者」
しかし、これもまだ隠し事があった。

(つづく)


20181031




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by lunabura | 2018-10-31 22:59 | 「ワダツミ」 | Comments(0)

ワダツミ31 ナグム ワダツミの神の妻



 ワダツミ31  

ナグム ワダツミの神の妻

 
  
 
この日は私が初めから変だったという。
皆の視線が集中すると、右膝を立てて背中を壁に付けて座り直した。
余計なものが背中にくっついていた。
菊如は黙ってそれをさっさとはがした。

それから私の左胸からカケラを一つ抜き、崋山の額に入れた。

崋山に懸かった者は右手で何かを祓うような所作をゆっくりとした。
水の中で波を起こすような。
それを延々と最後までやっていた。


菊如が言った。
「初めまして」
「そなたたちは何が聞きたいのじゃ。何をそんなに調べている」

「あなた様は何という方ですか」
「わたくしの名前…。こちらの名前…。われの名はナグム」

「何処に住んでおられるのですか」
「われは海の底。四つ柱の宮殿はわれの為に建てられたもの」

「どういうお役目があったのでしょうか」
「われはワダツミの神の子を生むためにあの宮殿に住まわされた者でございます。
ワダツミの神が封印されたため、あの宮殿も時を同じくして海の底へ。
あの宮殿はワダツミの我ら一族の住む宮殿でございます。
第二、第三の豊玉を作るために。

我らは海を離れることは出来ません。
しかし、海の中と陸地、両方兼ね備えた子を生み育てようとしたのでございます。
海の中と陸地の両方に住める者を作るため。

ワダツミの怒りに触れ、渦が起こり、大地震、大津波が起こり、すべて海底に沈んでしまいました。

私は尋ねた。
「玉依とはどういう方ですか」
「ワダツミの一族とは違います。ワダツミに仕える一族でございます。
われらより人間に近いのですが、人間ではございません。
人間のように臭い匂いではない」

「干珠満珠とは何ですか」
「代々、豊玉を名乗る者が受け継ぐ珠でございます。
干珠満珠を持つのが豊玉姫です。
守る役目が豊玉姫でございます。
決して豊玉姫の為にあるのではなく、この世の為にあるのです。
珠の為の豊玉でございます」

「この世の為の働きとはどういうことですか」
「潮の満ち引きはすべての者の暦でございます。
人の生き死に、すべてを司る。
すべての物を生み出し、すべての物を引いていくのです」

「今は何処にあるのですか」
「一組は出雲の方に。
一組はワダツミの神が持っております。
必ず大切なものは一対になっております」

「出雲にある事情は?」
「菊如たちが集めて持って行ったではありませんか。
本物の一対。
一組は出雲の神より十種の神宝、これを捧げなければこの国の神は動けないのでございます。
十種の神宝が四方八方に散らばったのは人間の仕業。
人間によって一つに集められ、神に奉納し、それをもって八百万の神が働き出します。

そのために干珠満珠は海の者たちが力を貸す約束でございます。
今一度、一つになり、この国を建て直す時です。
そのためには神々が働きます。

干珠満珠は人間が持っても使えるものではありません。
ただ人間の仕業で四方八方に散らばったものは人間の力で神の元に返す、それが大事なのでございます。

そのお蔭でこの地にワダツミの神が戻ったではありませんか。

そこから新たな豊玉姫が生まれ、干珠満珠を手に取り、この干満の力により、太陽のオゾン層が元に戻ります。
氷が元に戻り、海の上昇も元に戻り、すべての環境が元に戻るのです」

「それは完結したのですか」
「それぞれの場で働くようになってきました。
今回、そなたたちがワダツミの神を復活させたではないか。
これでワダツミの神が復活し、新しい豊玉姫が生まれ、豊玉姫に干珠満珠が戻り、気候が元に戻ってきます」

菊如が尋ねた。
「四つの柱には螺旋がありますよね。それは動くのですか」
「そう。あのまま上に上がっていくのじゃ。何故そのように造られたのか。
海が嵐の時には海底に沈んでおかねば危ないじゃないか。そんな事、誰でもが分かっておる。

今、海底からの侵入者を防がねばならぬ。
海の底を通ってこの地にやって来る者たちがおる」

私が尋ねた。
「今でも四つの柱は機能しているのですか」
「ワダツミが復活しましたからね。
今まで影を落としていたワダツミの神社に明かりが灯り、それに呼応して豊玉の神社に明かりが戻り、神々の道しるべとなる明かりが戻って、事が進んでいくのです」

「海の侵入者は神に任せておけばいいのですか。これからが始まりなのですか」
「始まりです。本当にしたかったことは、すべての神たちが手を結び、すべての者たちが今一度、自分たちがしたことを振り返ること。
気づいている者がおるではないか。
段々と変わっていく。
任せていればよい」

「ナグムは私の何ですか」
「遠い昔。私はあなたの遠い昔」

「転生したのですか」
「遠い記憶、かすかな記憶、海の底で暮らしていた記憶。
きっと今でも目をつぶれば海の底にいる記憶が蘇ります。
静かな静かな海の底。
そしてワダツミの神の強さと大きさと激しさをそなたは知っているはず」

これは私のカケラの物語だという。



20181030




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by lunabura | 2018-10-30 20:44 | 「ワダツミ」 | Comments(0)

ワダツミ30 クグマ2 津波



 ワダツミ30  

クグマ2 津波

 
  
 

ヌタから豊玉姫を預かったクグマがワダツミの神と交渉するという。
どうやって連絡するのか、尋ねてみた。

「どんな風に?」
「ワシ等は海に行き、産卵時期の亀の卵をそのまま海に流す。
亀の卵がワダツミとの交渉の合図。
ワダツミと話したければ亀の卵が必要。
亀の卵が鍵となる。
それが合図となる。

ワシ等は交渉した。
インドから大きな船がやって来る。
嵐や波にもまれることなく着けるようにと。
金を精製する道具が沢山乗っている。
ここの者たちは一つ一つ水でこさいでやっている。
そんな事をする必要はない。

その約束を取り付けるため『そなたの娘は預かった』とな。

それでどうなったか。

ワシ等は津波に飲まれてもろとも海の中。
あの呪は我らではなく、ワダツミの神が懸けたもの。

ワダツミの神があの地に豊玉姫を封じ込めた。
言う事を聞かぬ姫を閉じ込めた。
それだけのこと。

(戻ったとしても)大国主はここには入って来れぬ。
海は渡れぬからなあ。」

―豊玉姫にかけていた呪は父の仕業だという。
ワダツミの神が言う事を聞かぬあの地に封じ込めた?
状況がよく呑み込めなかった。

それでは大国主はどうなったのか、聞くことにした。

「大国主は?」 
「大国主の話?ヌタか」  

「ヌタは大国主なのですか」
「ヌタと名乗ったが、大国主と今では分かっておる。
『遠い異国の地から来た。我が名はヌタ』と言った」

「何処に行きたいと言ったのですか」
「島国から出ると本土に向かうと。
この島を渡り、この国の中心に向かう」

「この島とは九州ですか?」
「ああ」

「この国の中心とは何処ですか」
「宗像だ。
ワシ等の時代はほとんどが海。
陸が続いているのは宗像だった。
この九州の三分の一しか陸地が無い時代だ。

宗像を中心に栄え、鞍手は今で言う奥の院と言ったところか。
金が動き、外から船が入って来て出入りする。
栄える中心が宗像。

様々な力を持った者が集まる鞍手は不思議な所だった。
経済は宗像。政治は鞍手。
鞍手は外からは分からぬ。人を寄せ付けぬ。
むやみには入られぬ。猿田峠は関所だった」


鞍手にあるというシナイ山について菊如が尋ねた。
「シナイ山はご存知?」
「あそこには魔物が住むと、誰も近づかぬ。黒い山。誰も近寄れぬ」

「どうしてですか」
「魔物が住む。黒い狼が降りてくる。山に近寄ると、黒い狼が」
そう言うと「ここはきつい」と浄化された部屋を見まわした。
「すみません」
と何故か、謝る菊如。


「クグマさんは津波の時、どうされたんですか」
「もろともに、あの海に。
全部ワダツミの神のせいだ。
あの偉大なる力を何とかせねば、この地は栄えぬ。
この地を広げなければ。
この地はカネになる。」

「岡垣あたりですか」
「このあたり一帯、金は採れる、鉄は採れる、まだまだ鉱物が沢山採れる。
海に沈めておくのはもったいない。
もともと住んでいる者たちはキラキラするものが何かは知らない。
金がカネになることを。
鉄というものさえ知らない。
種を蒔いて作物を作っている。
もったいない。
噂は海賊に広まり、皆この土地を狙うようになった。
黄金の国ジパングはこの九州のことよ」

「津波の時、大島や沖ノ島も沈んだのですか」
「もっと大きかった。地震と津波で沈んだ。歩いていた」

私は尋ねた。
「螺旋階段のある四つの柱のことはご存知ですか」
「もともと上にあったのが地震で沈んだ」

「四つの柱の噂は聞いたことがありますか」
「沖ノ島の神殿のことか?
あの神殿。ワシは一度だけ見た。陸の上にあるのを。

腕の下にヒレのようなものがついた、ワシ等とは違う生き物がいる。
人の形はしているが、指に膜がある。
女は薄い服を着ている。
男は耳がギザギザで、手には薄い膜が張っているのを見た。
歩くとぺチぺチと足音がする。
聞いた話だが、海賊たちから、ワシ等とは体が違う、近寄るなと言われた。
毛は無い」

「それがワダツミの一族ではないですか」
「ワダツミの神と会ったわけではないからな。
海に卵を投げ入れ、大きな声で叫んだだけ」

「豊玉姫はどうなったのですか」
「津波でやられている時だ、豊玉姫のことは知らん。
水浸しで一週間は水が引かなかった。
-ああ、体が楽になった」


「ワシの中のヘビもどっか行ったんだろう。体が楽になった。
食べ物も何もかも流され、塩水を呑めば命を縮める。
意識が遠のく中で見たのは水の上の死体と、きれいな朝日の光。
まるで、ざまあみろ、とワダツミの神が笑っているようだった」

菊如が尋ねた。
「出雲は何処にありましたか。九州ですか」
「先程から言っておる」

「鞍手ですか」
「政治には暦を読む者、星を読む者、月を読むものがいる。
それは今でも続いているではないか」

私は尋ねた。
「インド人がいたのですか」
「いろんな国のやつら。それこそ黒い目、青い目、陣地を取り合うように。金が採れるからな。いろんな国から来ておった。
   
もらった玉から、あれは豊玉姫かと思ったが、本物かどうかはワシ等には分からん。
ただ二つ泡が見えた。これが話に聞く珠かと思った」

菊如はビジョンに見えていた人のことを尋ねた。
「占いをしていた人はどんな方?」
「オバアのことか。ワシ等の村のオバアのことか。石占いのオバア。
石とこれくらい(十センチ)の竹で占う。
竹は「→」の形をしていた。
石は12個だった。鞍手に住んでおる。会ったことはねえ」

「大国主神社となっているんですよ。あなたのいた所は。
何故、豊玉姫、大国主を語る者がおったか分かりませんか?本物ですか?」

男は必死に思い出していた。
「オーアガタノヌシ。
あのヌタがそう言われていた事を思い出した。
ここいらには、よそ者はあまり来ないからな」

私は尋ねた。
「ヌタは津波の後、戻って来たんでしょうか」
「どこもかしこも水。何を目印に探す。
土を掘る仕事。全部大きな津波に飲みこまれた。
真っ暗な中にゴーッと聞こえ、まず大風が吹いた。
地響きがし、地震かと思ったら、爆音と共に大水がすべてを押し倒し、流していった。

あっという間じゃ。そして水が引いた。
飲み水さえない。どうやって生きる。
これがワダツミの神の怒りかと改めて思ったよ」

そう言うと、しばらくしてクグマは去った。


―クグマ族が日本に来た頃、宗像が中心として経済で栄え、鞍手は政治の地として人を寄せ付けなかったという。そこが出雲だとも。

岡垣の大国主神社は山付きにあるが、標高を見ると、当時は海が側まで来ていたようだ。そこにやって来たヌタは船を頼み、女を預けて去った。

ヌタはオオアガタヌシと呼ばれていたが、それがのちの大国主のことだろうという。

女が渡した珠を、クグマは干珠満珠と思い、女はワダツミの娘と思った。
そこでインドから道具を載せて来る船の安全を保障してもらうために、ワダツミの神と交渉したら、地震と津波が起こり、クグマらは飲み込まれてしまった。
以上が概要だ。

結局、アリサの魂の物語までは到達しなかった。
呪に引かれて出て来たクグマの話で終わってしまった。


20181029

「ワダツミ」の前の部分を読む時には、
下にある「ワダツミ」をクリックすると過去記事が出てきます。




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by lunabura | 2018-10-29 21:11 | 「ワダツミ」 | Comments(0)

ワダツミ29 クグマ1 豊玉姫とヌタ



 ワダツミ29
  
クグマ1 豊玉姫とヌタ

 
  
 
アリサが豊玉姫だとしたら、話を聞こう、
ということになったが、アリサからそのカケラを抜くと、
沢山の蛇の呪が掛かっていた。

その呪は含み笑いをし、ガラガラ蛇のように音を立てて話にならない。

それはこの物語の始まりの日、2017年10月10日、
岡垣の大国主神社の境内にいた小さなヘビだった。

菊如はそのへびに声を掛けた。
「こんばんは。大国主神社で会いました」
「あれは我が子の一部」

ヘビが子を沢山産んでいて、それが豊玉姫の呪となっていたというのだ。

「どういうことです」
「何故、そなたに話さねばならぬ」
剣もほろろだ。
確かに、話さねばならない義務は無いのだが。
これでは取り付く島もない。

すると、その直後、崋山に別の存在がかかった。

背中が曲がり、両腕をだらんと下げた年寄りの男だった。
ゼイゼイと息をし、座るのもやっとという重病人だった。

「何族ですか?」
「われらの一族のことか?我らはクグマ」

「クグマとは?かなりお年を召していますね。きついでしょ。
ノウマクシッチシッチ… 水を上げて」
菊如は答えを聞く前にその男に水を飲ませ、真言で癒した。

男は絞り出すような声だ。
背を丸めて何とか座っている。
咳を激しくすると、菊如は背中をさすってやった。

「何処から来られたんですか?さあ、吸って吐いて、吸って吐いて」
菊如が癒すと男は少しずつ話せるようになった。

「どうして、そう体が悪いのです?」
「何が聞きたいのだ」

「どうして大国主神社におられたんですか」
「あそこはもともとワシの物じゃ」

「クグマさん、何処から来られたんですか」
「海を渡って来た」

「どの国ですか」
と尋ねるが時代が違うので答えようがない。菊如は
「今で言う国の名が口からつい出てしまう」
と文殊菩薩の真言を唱えると、世界地図を見せた。
もちろん肉眼では見えない地図だ。

「人指し指でこの地図の何処かを指して」と言うと、
男は「我、インドの熱き国から来た。南の方から」と答えた。

「最初に広げていったのはあなた方?」
「黒い目の奴らが大勢であのあたり一帯を欲しがったが、分からん。
あの辺りは金が採れる」
男は水銀毒にやられていたのだ!

「それで体が悪い」
「あのあたりは金が採れるから、いろんなやつらがあの土地を狙いに来た」


「その時、豊玉姫が来られたの?」
「ああ。お付きの者も付けずに二人で来た」

「どなたと?」
「男の名前か?
男の名前はヌタと聞こえた。
お団子を一つにまとめた髪の男だ。
布を頭に被って女が後から来た。顔が見えなかった。
わしらには何も言わないが、分かった。
あれが海の女だと」

「なんで分かったのですか」
「ヌタがワシ等に言った。舟を一艘出してくれと」

「二人だけ?」
「女は薄いピンクのひらひらと、今で言う、襦袢のようなひらひらなのを着ていた。顔は見えん。二人で舟を出してくれと。これで」

「これって?」
「それを見てワダツミの娘かと分かった。
干珠満珠だ。
珠は二つ。泡が見えた。
ヌタが差し出した。

海は大荒れ。ワシはピーンと来た。
この男が豊玉姫をさらって逃げてるんだなあと。
さらった訳ではなく、一緒に逃げた。

ワシ等は考えた。たいそうもてなした。何せワダツミの娘だ。
舟を用意するまでに五日かかると言った。

すると、ヌタは用意するものがあるから”娘を頼む“と置いて行った。
ワシ等は“安心して行って来るがよい”と言った。
その頃、ヌタはワシ等の事を信用していたからな。
さあ、それからワシ等一族とワダツミの神との交渉が始まった」






2018019




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by lunabura | 2018-10-19 21:22 | 「ワダツミ」 | Comments(0)

ワダツミ28 海と陸



 ワダツミ28  
海と陸

 
  
 

庸の話が一段落したところで、私が質問をした。

「ここにいるアリサとはどんな関係ですか」
そう尋ねると、庸はニコリとして、
「分かりませぬか。姉上は分かっているではありませんか」
と姉に言うと、和葉は「豊玉姫」と言った。

庸はこちらに向いて、
「あの方が豊玉姫ではありませぬか。
門が閉まる前に姉は豊玉姫にウガヤを戻しました。
それから海と陸の門が閉まりました。
皆さんが集まったお蔭でワダツミの神の怒りが鎮まりました。
またやり直しなんです。
本当に目指したものをこれから…。
海と陸と空が一つに…。
やり直しなんです。
少しお役に立てたことで、ワダツミの神や豊玉姫にお返しすることができました」


「海と陸の戦いとは何ですか?」
「あの頃、海が急に荒れたり、台風が来るとワダツミの神のせいにしました。
その頃は地震なども多く、それも全てワダツミの神のせいだと。
恩恵を受けていることを忘れ、人々はワダツミの神を封印しようと動き出しました。
ワダツミの神がいた頃は魚をむやみに獲らせませんでした。
波を起こし、船を出させず、魚を守っていました。

人々はワダツミの神の力が弱まるように、
アヅミの者をすべて陸に上げようと一計を案じました。

さすれば、ワダツミの神を封印すれば、海は静かになる、と。

ワダツミの神の威力はとても強く、援護するアヅミの力も大きかったのです。
そこで考えたのが、アヅミの者たちと仲良くなるため、一人、一組と陸地に上げていこうと、海と陸の婚姻を持ちかけてきました。

豊玉姫の結婚もその一つでした。
ワダツミの神は反対していましたが、豊玉姫は陸地に上がりました。
ただ、豊玉姫は男性を知らなかった。
海と違う匂いのする陸地の者にどんどん惹かれていって…。

大事に育てられ、初心でかわいい豊玉姫は人を疑うことを知らず、
陸に行くことになりました。

私は豊玉姫と共に陸地に上がりました。
ワダツミの神は私に豊玉姫のそばを片時も離れるなと命じました。

なかなか子が生まれませんでした。
陸の者は豊玉姫の子を望みましたが、子は出来ません。
急かされ困った豊玉姫が私に懇願しました。
これが私の最後の物語です」

菊如がねぎらった。
「よく話していただきました。他の姉妹はどうしたのですか?」
「皆ばらばらに陸地に上がりました。
そもそも巫女の力は絶大ですから、それぞれ請われて。

このように出会えたということは、また始まるとういうこと。
やり直せるということ」

「今日は会えて良かったですね」
「これで一つ罪が楽になります」
と庸は言うと崋山から離れて行った。

結願が終わった後、崋山が語った。

本来の玉依の血とアヅミとはまた違う。
豊玉姫は純血。
玉依の一族は人の血が入っている。
だから陸の人と子ができた。

和葉は山に入ってすぐワダツミに首を斬られ、ウガヤは海に連れ帰られた。
庸は自分の死後のことなので、それを知らなかった。
庸は辛子色の衣を着ていた。

豊玉姫は常に一人だけいる、
玉依は一世代に七人。 
豊玉姫と玉依は姉妹のように育つ。
玉依の中でも庸は豊玉姫と歳が近く、近しかった。
それで陸との婚姻にも付いていくように言われた。

庸の言葉を語りながら、崋山自身はそれを見ているという。


さて、のちに、現実界で鈴音に会った時、こんな話をしてくれた。

浜辺に立って海に向かい、鈴を鳴らしていたことを覚えていると。

こうして、ワダツミと言霊を交わしていたのかもしれない。


不思議な異世界のおはなし。
異世界の住人といえど、心を開くまでは真実を語らない。

それは庸もしかり。
志登での豊玉姫もしかり。


これからは心して耳を傾けようと思う。



20181016



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by lunabura | 2018-10-16 22:05 | 「ワダツミ」 | Comments(0)

ワダツミ27 和葉 玉依 ウガヤを預かる



 ワダツミ27  

和葉 玉依 

ウガヤを預かる

 
  
 
封印されていた秘密を語った庸(よう)に、菊如は尋ねた。
「この中にお姉さまはおられますか?」
「おります」

「どの方でしょうか?」
庸は琴音(ことね)を指した。
琴音も既に自分の事だと分かっていた。
そのまま立ち上がって鈴音の側に行き、手を取り合って寄り添った。

菊如は庸に尋ねた。
「お姉さまのお名前は何とおっしゃるんですか?」
「姉の名は和葉(わよう)といいます」
そう言うと、鈴音は泣き崩れた。
そしてあふれる感情のまま、泣きながら謝った。

「私の我儘で全てを台無しにしてしまいました。
豊玉姫を傷付けてしまいました。
姉上の未来を壊してしまいました。

本当に申し訳なく思うております。
姉上の未来を台無しにして、申し訳なく思うております。

姉上はあの後、私を砂に埋め、ウガヤを抱きかかえ、暗い山の中に走り去りました。

姉上はそれから人目を避け、ウガヤを守ろうとしましたが、海ではなく、人間たちに捕えられました。

ワダツミの神は怒り、そして気付いてしまったのです。
豊玉姫の子ではないと。

それから海と陸の門を閉じました。

そして姉上も海には帰れず、でも陸の人間とも違う、そういう生き方になりました。
すべて私の我儘のせいで…」
庸は泣いて泣いて泣きながら謝り続けた。

「母心やもんね」
と菊如はやさしく慰めた。

そして尋ねた。
「お姉さまは知っていたのですか」
「姉上は全部知っていました。ただこれは人に言われると大変なことに。
私たちが考えても、結局のところ戦は起こってしまいました」

「長いから幸せでもなく、その時、一生懸命生きた事が大切ですよ。
素晴らしい人に生まれ変わっていますよ。」
と、菊如は諭すが、庸は泣き止まない。
「すべてをひっくり返してしまいました」
と嘆く。

「恵まれた人生がいいとは限らないのです。
何回も生まれ変わっています。
色々な経験をなさって、現世で素晴らしい方になっていらっしゃる。

あなたは世の中に貢献していらっしゃいます。
ウガヤの生まれ変わりは良い子に育っていますよ。

結果が良ければ良いのです。
今日、会えて良かったですね」

これを聞いて庸も少し心が晴れたようだった。
「これが私の罪、それを明らかにする事、それが条件でした。

ワダツミの怒りはおさまり、新しい時代に入っていきます。
私がこれを話すこと…。

私は姉上に謝りたかった、もうそれだけです。
私は罪を償いました」

「ウガヤの生まれ変わりに霊力があるのは何故ですか」
「もともと玉依の一族。巫女みたいなもんですから」
ウガヤの生まれ変わりの白皇は菊如たちと行動するうちに霊力を目覚めさせ始めていた。

ワダツミの神の直系ではない事が明らかになったが、玉依の一族も霊力が高い集団なので、その力を受け継いでいるという。

「ウガヤに伝えたい事はありますか?」
「私の我儘でこういう形になってしまいましたが、私の子としてより、豊玉姫の子として生きた方が幸せだったと思います…。
豊玉姫の子ならワダツミの孫。
それを何度も考える日々でございます」

「どっちが良かったかなんてわからないですよ。
あなた無くして生まれた子ではないのですから。

ところで、今ここに、関係する人々が集まっているのは何故でしょうか?」
「重要だから海の者たちが集まっているのです」



庸は海から打ち上げられたが、そこには姉の和葉が待っていた。
そして子を預かり、庸の亡骸を埋め、山に入っていった。
その後、人間に見つかってしまったという。

一方ワダツミの神はウガヤが豊玉姫の子ではないことを知った。

そののち海と陸の門が閉じられたという。

この物語の場所は志賀島の勝馬(かつま)。
勝馬には沖津宮と仲津宮と表津宮の三社が海を囲んで建っている。

その海の近くに洞窟があり、神々はそこから時々この海に姿を現すことから、神遊瀬とも呼ばれた。

その浜にワダツミの神の陸地の神殿があったと、崋山は語った。



20181015

『神功皇后伝承を歩く』下巻71志賀海神社



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by lunabura | 2018-10-15 20:50 | 「ワダツミ」 | Comments(0)

綾杉るなのブログ 神社伝承を求めてぶらぶら歩き 『神功皇后伝承を歩く』『ガイアの森』   Since2009.10.25